コラム

インテルがイスラエルの「自動運転」企業を買収する理由

2017年04月11日(火)12時06分

1つ目の「認識・判断・制御プロセス」とは、AI(人工知能)を駆使する自動運転のプロセスを人間の運転の動きと比較して表したものである。人間の運転においては、まずは目で認識し、脳で判断し、手足で制御を行う。自動運転においては、目で認識する部分にはカメラ、レーダー、高精度のGPSや地図が対応、脳で判断する部分にはAIが対応、手足で制御する部分にはハンドル、アクセル、ブレーキ等が対応することとなる。

2つ目の「製品設計階層」とは、自動運転システムが装備された自動車を車体領域、自動運転コア領域、クラウド領域の3つに分類したものである。

3つ目の「SAEレベル」とは、SAEが自動運転のレベルを定義したものである。SAEレベルについて特筆すべきことは、主要各社の間では、レベル3やレベル4の実現予想時期がこの1年間で数年単位で前倒しになって開発スピードが加速度を増していることである。そのなかでも特に注目されているのがBMW、インテル、モービルアイ連合による自動運転システムの開発なのである。

2016年の7月1日、BMWのハラルト・クリューガー社長、インテルのブライアン・クルザニッチCEO、モービルアイのアムノン・シャシュア会長は共同記者会見において、「2021年までに完全な自動運転車を市販する」と発表した。より具体的には「レベル4のクリアを目指す」と明言しており、このレベルの自動運転車の市販時期まで発表したことは画期的である。

【参考記事】自動車はどこまで自動化すれば自動運転車になる?

インテルがイスラエルに自動運転のR&D拠点を移す理由

インテルがモービルアイの買収を契機に自動運転のR&D拠点をイスラエルに移す理由としては、まずはモービルアイの方がこの分野において比較優位を有していることが挙げられるだろう。

もっとも、インテルが2社間の比較優位だけを考えて立地戦略を決断したわけではないことは明白である。イスラエルは近年「第2のシリコンバレー」や「スタートアップ大国」とも呼ばれ、米国ナスダック株式市場においても米国に次ぐ上場企業数を誇っている。イスラエル自体の競争優位にも着目して立地戦略を決断したと考えるのが自然だ。

ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、「ある産業が特定の地域に集積して競争優位を生み出していること」を「産業クラスター」と定義している。ポーター教授は産業クラスターが成立する基盤として、要素条件、需要条件、企業の戦略と競争(競争環境・企業戦略)、関連産業・支援産業の4要素を「ダイヤモンド・モデル」として指摘している。

イスラエルにおける自動運転産業は、産業クラスターに必要な4つの要素を全て充足しており、同産業におけるイノベーションを生み出しているものと考えられる(図表2参照)。

m_tanaka170411-chart2.gif

「要素条件」とは人材や技術など企業間の競争を可能にするインプットのことである。イスラエルにおいては自動運転を始めとするITの要素条件が充足されている。

「需要条件」とはイノベーションを生み出すレベルまでの洗練された高度なニーズをもつ顧客が存在するかという条件である。イスラエルには、グーグル、アップル、マイクロソフトを始めとして自動運転やITの技術開発に極めて高度なニーズをもつ企業が集積している。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story