コラム

トヨタ福祉車両の第一人者に聞く、「移動弱者」と日本のこれから

2021年07月28日(水)20時00分

──身体障害者が自分で運転する自操式の福祉車両の開発や商品化に積極的に取り組まないのはなぜか。

自動車メーカーは一つのプラットフォームで月数百万台を生産する量産車が強く、一人一人に応じてカスタマイズするのは苦手だ。その点については、身体障害者用の運転装置、車いす用昇降リフトなどの製造販売や取付を専門とするミクニ ライフ&オート(旧:ニッシン自動車工業)などと連携することで対応している。

──障害者や高齢者の外出に伴う困難について、日本と欧州にはどんな違いがあるか。

障害者の外出について、足腰が弱くて外出できないという問題はあるが、日本の場合はそれ以外にも周囲の人が障害者との間に壁を作っているように感じる。車いす利用者が電車に乗るには、ホームと電車の間に隙間があるため、障害者は駅員に都度スロープの板を出してもらう必要がある。

一方、ドイツでは駅員が障害者の乗降を助けるのではなく、周りの乗客が躊躇することなくさっと手助けをする。健常者と障害者の心の壁が低いと感じた。

ドイツをはじめ欧州のような健常者と障害者の関係を日本でも実現したいと思う。しかし、自動車メーカーとしてできることは限られている。願わくば、足腰の弱い人が車いすや福祉車両を使うことで自由に外出できるようになり、双方がより身近な存在として関わる機会が増えたらいいと思っている。

移動できるようになるのは大前提

──トヨタの福祉車両が活用されているのはどんな場面か。具体的な事例を教えてほしい。

トヨタのウェルキャブのハイエースは高齢者のデイサービス送迎に使用されることが多い。この小さなクルマに車いす利用者が2人、車いすなしの高齢者が5人、介護者と運転者の合計10人弱が乗車できる。(自分が開発したクルマなので)たまにデイサービスへ送迎中のハイエースに乗るが、会話や笑い声がなく、クルマの中が恐ろしく静かだ。外出頻度を上げるという意味でデイサービスは貢献していると思うが、いきいきとした雰囲気はこのクルマの中にない。

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ウェルキャブのハイエース 筆者撮影

一方、ウェルキャブのノアはもっとローテクな福祉車両だが、私が目指しているものに近い。このクルマは路線バスが廃線になったり、市営でも運行がままならない、秋田県横手市や福井県永平寺町などの地域で、市町村が車両を購入して定年退職した地元住民がドライバーを担う自家用旅客運送用の車両として活躍している。このクルマには沈黙が少ない。なかには3日間誰とも話していなかったという高齢者もいて、買い物など分かりやすい理由をつけ、本当は誰かと話したくて乗りに来ているようだ。

話すことは認知症の予防に最適で健康寿命の延伸につながる。私たちにとって、移動できない人が移動できるようになることは大前提。移動できるようになった人が主体的に、健康な生活を送ることができるように貢献していきたい。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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