コラム

脳卒中患者の自動車運転再開プロセスとは──日本の支援体制と現在地

2021年03月31日(水)17時30分
脳卒中の発症は働き盛り年代にも多い

障害や病気、身体の衰えを踏まえて運転と向き合うことが今後より重要になる(写真はイメージです) miya227-iStock

<病気によって一度運転から離れてしまった人への再開支援はまだまだ進んでいないというのが日本の実情で、これは何も高齢者だけの問題ではない。脳卒中の例を通してその実態を考える>

病気で運転がうまくできなくなった人への運転支援について、日本では回復後の運転可否の診断や運転再開などのサポートが弱いという。死亡要因第4位の脳卒中を通してその実態について考える。

65歳未満の働き盛りにも多い

脳卒中は医学的には脳血管疾病と言われる。脳の組織に栄養や酸素が十分に行き届かなくなって障害が引き起こされる。血管が詰まるのが脳梗塞、血管が破れるのが脳出血やくも膜下出血だ。これらすべてが脳卒中に分類される。

脳卒中発症後は、てんかん(意識を失う、手足のけいれんや脱力)、視覚障害(視界がぼやける、視野が狭くなる、左右半分が見えなくなる)、運動麻痺(手足が動かしにくい)、感覚麻痺(手足の触っている感覚が鈍くなる)、高次脳障害(記憶や注意障害など)など、自動車の運転に影響を及ぼす症状が出る。

厚生労働省*1によると2017年時点で日本人では約12人に1人が発症し、死亡要因の第4位となっている。高齢者に多いイメージだが、65歳未満にも多い。女性よりも男性がなりやすい傾向にある。65歳未満で発症した人のうち、「まったく症候がない」「症状があっても明らかな障害ではない」「軽度の障害」が69%だが、一方で「寝たきりで介助が必要となる重度の障害」や死亡に至る例も少なからずある。復職可能レベルに回復できる人が51.5%、復職・就労の可能性がある人が24.5%となっている。働き盛り年代にも多く、脳卒中になったからといって、その後まったくできなくなるわけでもない。

脳卒中患者の運転再開プロセス

脳卒中を発症した人が自動車の運転再開を希望する場合はどうすればいいのか。

運転再開を希望する場合は、まず警察に連絡して相談をする必要がある(運転免許本部、運転免許センターなど県によって異なる)。日本では自動車の運転や免許の取り扱いに関しては警察が担当しているからだ。

2014年(平成26年)6月の道路交通法の改正で、一定の病気(統合失調症、てんかん、再発性の失神、無自覚性の低血糖症、躁鬱病、睡眠障害、脳卒中、認知症、アルコール中毒者など)にかかった人は、公安委員会へ質問票や報告書の提出が必要になった。虚偽の記載や報告をした場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金となる。

────────────────
*1 脳・心臓疾患等の現状|厚生労働省
脳血管疾患患者数の状況|厚生労働省
脳卒中患者(18-65歳)の予後|厚生労働省
脳卒中患者の復職等の状況|厚生労働省

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状

ビジネス

アングル:中国本土株の投機買い過熱化、外国投資家も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story