コラム

冷静と情熱と兄弟と音楽革命

2020年07月25日(土)15時50分

練習スタジオでバイオリンを弾く俊太郎さん COURTESY T. YOSHIDA

<人気バンド「King Gnu」リーダー常田大希さんの兄、常田俊太郎さんに聞く、家族と音楽のこと、音楽関係で起業したきっかけと、目指している新しい音楽のカタチ>

「常田大希の兄と、周りはキャッチーだから言うのだろうと思います。でも自分と弟はかなり違います」。

2歳下の弟はいま大人気のバンド「King Gnu」のリーダーで、昨年はNHK『紅白歌合戦』にも出場した。だが話を聞いてみると、確かに2人は違う。そして、対照的な兄弟の生き方には不思議な巡り合わせの一端が浮かび上がるようだった。

常田俊太郎さん(30)は1990年、長野県に生まれる。家にはいつも音楽があふれていた。父はジャズピアノ、母はクラッシックピアノ、弟はチェロを演奏した。

中学・高校時代、常田さんはバイオリンで数々の全国コンクールで入賞している。だが高校卒業とともに生活の中心だった音楽は影を潜める。

「一般的には頑張っているほうでしたが、自分よりすごい人もたくさんいました。音楽で成功するには自分は熱中の度合いが足りないと合理的に判断して、しっかりした大人になってちゃんと生きていくってことを考えました」

自分と対比した先には弟の姿もあった。「弟は自由だった。興味のないことはほとんどやらない、のめり込むタイプで、時間も食事も忘れて音楽に熱中していました」

「頑張ってきた音楽を諦めるなら、それ相応のことをしないと」。音楽の代わりに選んだのは、東京大学工学部への進学だった。卒業後はコンサルティング会社に就職。しかし、常田さんにはどこか満たされない想いが残ったという。

「経営コンサルタントとしてさまざまなクライアントの事業を支援するなかで、あれ、自分って何がしたかったんだろうって。一方で、弟は大学を1年生でやめました。親が悲しむから一旦休学にしたらと言ったんですが、関係なかった。音楽の道に進むのは一般的には堅実とは言えないかもしれない。でもそんな画一的な評価を受け付けず、熱中できる人をリスペクトしたいと思いました」

新しい音楽のカタチを目指して起業

自分ももっと自由でいいのかもしれない。その気付きが常田さんの考え方を大きく変化させる。「小さい頃から続けたバイオリン、仕事での経験、弟とのこと、これまでどのような意味があるのかなと感じていたことこそが、実は自分の今やりたいことにつながっていったんです」

常田さんはコンサル会社を退社し、2018年、アーティストをデジタル技術で支援する「株式会社ユートニック」を起業した。アーティストが活動を収益化できる場を従来のライブやCDなどから広げ、練習時の音源や未発表曲の録音など、世に出ず眠っていたコンテンツをデジタル化する。ファンがコンテンツを買うと、アーティストへの「応援の証し」として目に見える形でスマートフォン上にコレクションされていく。

「CDは売れないし、今後はコロナの影響でライブ活動も制限されます。それでもアーティストが自分がいいと思うことに熱中し続けられ、それが社会的にも、経済的にも報われる仕組みを築きたいんです」

常田さんが目指すのは音楽業界の革新だ。熱中したい人が、安心してとことん熱中できる環境の整備。それは非合理を包摂するための合理で、その両極端を理解する常田さんだからこそのビジョンだと感じた。

<2020年7月14日号掲載>

プロフィール

久保田智子

ジャーナリスト。広島・長崎や沖縄、アメリカをフィールドに、戦争の記憶について取材。2000年にTBSテレビに入社。アナウンサーとして「どうぶつ奇想天外!」「筑紫哲也のニュース23」「報道特集」などを担当。2013年からは報道局兼務となり、ニューヨーク特派員や政治部記者を経験。2017年にTBSテレビを退社後、アメリカ・コロンビア大学にてオーラスヒストリーを学び、2019年に修士号を取得。東京外国語大学欧米第一課程卒。横浜生まれ、広島育ち。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米交戦終結案の精査継続 パキスタン経由で正

ワールド

イラン、米提案の停戦計画は「過度」 ホルムズ海峡の

ビジネス

メタ、複数部門で数百人を削減へ リアリティ・ラボな

ワールド

米国防総省、軍需品増産で防衛3社と枠組み合意 ロッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆保険」を達成した中国の医療保険の実態とは
  • 4
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 5
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 6
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 7
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 8
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 9
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 10
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story