コラム

性分化疾患を抱える女子ボクサーは「女性」だ...パリ五輪の性別騒動

2024年08月03日(土)18時01分

父親「娘への攻撃は道徳に反している」

ヘリフは子どものころ、村からジムまで約10キロメートルのバス代を稼ぐため、母親がクスクスを売る傍らで金属くずを集めていた。ヘリフの父アマルさんは「娘のイマネに浴びせられる攻撃は道徳に反している。祖国のために金メダルを獲得してほしい」と励ます。

アマルさんは英大衆紙デーリー・メールに「彼女に対する攻撃はフェアではない。6歳のころからスポーツが大好きでサッカーをしていた。このような批判やウワサは娘を不安定にさせるのが目的で、彼女が金メダリストになることを望んでいないのだ」と訴えている。

一方、棄権したカリニは「この論争は私を悲しくさせる。対戦相手に申し訳ない。(IOCが)彼女が戦えると言ったのなら私はその決定を尊重する。試合後、握手をしなかったことを後悔している。彼女とみんなに謝りたい」と母国のスポーツ紙に語っている。

ロシア主導のIBAはガバナンス、ロシア国営エネルギー会社ガスプロムへの資金依存に懸念を示してきたIOCと対立、19年に資格を停止されている。このため東京五輪、パリ五輪と2大会連続でIOCがボクシング競技を運営している。

IBAのウマール・クレムレフ会長は「なぜ女子ボクシングを潰すのか理解できない」とIOCを批判し、カリニに五輪優勝報奨金(全部で10万ドル)と同じ金額を授与すると表明した。

SNS上で無責任なウソやウワサ、デマが駆け巡り、無知が偏見と差別を広げていく。今回、騒動が蒸し返された背景にはLGBTQ+(性的マイノリティー)を異端視するウラジーミル・プーチン大統領の「伝統的な家族観」が影を落としている気がしてならない。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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