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英で下院議員殺害 ソマリア系イスラム教徒の犯行 背景に政治の分断とコロナの閉塞感か
下院議員に対する犯罪は16~20年に678件報告されている。このため議会を離れた場所での議員警護費は10年度の3万7823ポンド(約594万2千円)から、コックス議員が殺害された翌年の17年度に457万8600ポンド(約7億1930万円)にハネ上がり、19年度には338万172ポンド(約5億3100万円)となっている。
エイメス議員は敬虔なカトリック教徒で5人の子供がおり、娘のアレックスさん(31)が数週間前に結婚式を挙げたばかり。38年間下院議員を務め、EU離脱を強硬に訴えた欧州懐疑主義者。同性婚や人工妊娠中絶に反対、動物愛護の立場から英伝統のスポーツハンティングであるキツネ狩りにも反対し、動物実験の禁止も訴えた。
イギリスではEU離脱で政治の分断が広がっている。北アイルランドはアイルランドとの国境を開いたままにするため、逆に北アイルランドと英本土間に非関税障壁が生じ、朝食用のイギリス産ソーセージやベーコンを北アイルランドに持ち込めなくなった。これに対してイギリスに留まることを望むプロテスタント系ユニオニストの反発が強まっている。
コロナ危機による閉塞感
イギリスでは3回目のブースターワクチンの接種が始まり、筆者も接種を済ませたばかり。コロナ危機で1年半もの間、我慢を強いられてきたイギリスでも出口が見えてきた。しかし、一時帰休保障や低所得者向け社会保障給付の週20ポンド(約3144円)上乗せも打ち切られるため、蓄えのない低所得者層に不安が広がっている。
そこにEU離脱による供給制約や需要の回復がガスや電気などエネルギー料金の値上げや食料品の高騰を引き起こし、家計を直撃している。ボリス・ジョンソン英首相はツイッターで「彼は最も親切で素晴らしく、紳士的な政治家の一人だった」とエイメス議員の死を悼んだ。ジョンソン首相はとにかく社会不安の解消を急ぐべきだ。
英南西部プリマスでは8月に「私は童貞。社会的に孤立し、交際相手の女性を見つけられない」と告白していた22歳の非モテ男子が散弾銃で母親を殺害して自宅を飛び出し通りがかった父娘を射殺、さらに2人を殺害、2人を負傷させて自殺する事件が起きた。銃規制が厳しいイギリスで銃乱射事件が起きるのは11年ぶりだった。
MI5のマッカラム長官はイスラム過激派だけでなく白人至上主義者による極右テロ計画も増加傾向にあると警鐘を鳴らしている。今回、動機はまだはっきりしないものの、広い意味で貧富の格差拡大による社会的な絶望感がテロの引き金になっているのはほぼ間違いないだろう。