コラム

高年齢者雇用安定法の改正と70歳現役時代の到来

2021年05月31日(月)15時10分

では、2021年4月から「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたことにより、今後高年齢者はどういった形で働くことになるだろうか。改正高年齢者雇用安定法により、希望者が65歳まで働けるようになった2013年から現在にいたるまでの企業の対応を参考にすると、今後も多くの高年齢者は「70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)」により働く可能性が高いと考えられる。実際、2020年現在、高年齢者就業確保措置の実施済企業のうち、継続雇用制度を導入している企業は76.4%で、定年の引上げ(20.9%)や定年制の廃止(2.7%)を選択している企業を大きく上回っている2。さらに、多くの企業は継続雇用制度における再雇用制度と勤務延長制度のうち、人件費負担が少ない再雇用制度を導入しているので、しばらくの間は再雇用制度により雇用を延長すると考えられる。

再雇用制度により雇用される場合の雇用形態はパート・アルバイト、嘱託等の非正規職が多い。独立行政法人労働政策研究・研修機構(2020)3が60~69歳の高年齢者を対象に2019年7~8月に実施した調査結果によると、正社員は21.4%に過ぎず、多くの高年齢者は、パート・アルバイト、嘱託、契約社員等の非正規雇用労働者として仕事をしていることが確認された。賃金額が減少した高年齢者は7割を超えており、現在の仕事について満足している高年齢者の割合は4割弱にとどまっていた。高年齢者(就業者)が現在仕事をしている最も大きな理由としては、「経済上の理由」(76.4%)が挙げられた。これは2番目の「いきがい、社会参加のため」(33.4%)と3番目の「時間に余裕があるから」(22.6%)を大きく上回る数値である。さらに、「経済上の理由」を挙げた割合を年齢階層別にみると、60~64歳が82.3%で65~69歳の69.8%より高いことが確認された。60~64歳の割合が高い理由としては、公的年金の受給開始年齢が段階的に65歳まで引き上げられている点が考えられる。

-----
2 厚生労働省(2020)「令和2年『高年齢者の雇用状況』集計結果」
3 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2020)「60代の雇用・生活調査」JILPT調査シリーズNo.199


高年齢者雇用確保措置と若者の雇用

2021年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行されるとともに、新型コロナウイルス感染症の影響により普及し始めたテレワークが企業に定着すると、通勤時の電車の混雑等による心理的、体力的な負担が軽減できるので高年齢者の労働市場参加はさらに増えると考えられる。近年は、景気も比較的悪くなく、若年者人口の減少による労働力不足が問題になっているので、高年齢者に対する雇用推進政策が若年者の雇用に大きな影響を与えなかったのも事実である。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員、亜細亜大学特任准教授を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story