コラム

韓国に経済危機は再来するか?

2019年12月31日(火)00時22分

取引日基準で21日間続いた外国人投資家の韓国株の売り越しは止まり、韓国総合株価指数も12月27日現在、2,204まで回復している。そして、外国人投資家の対韓投資金額の減少が懸念されていたものの、この点はより長期的な観点から見る必要がある。つまり、上記の「対韓外国人直接投資の推移」を見ると、2018年の対韓投資金額が群を抜いて多かったことが分かる。特に、フランスや中国における2018年の対韓投資金額が大きく増加した。

■主要国の対韓投資金額の四半期別推移

koreakeizai20191231114505.jpg

そして、経済危機があった1997年と比べると、韓国経済は大きく成長した。サムスン電子、LG、SK、現代自動車など韓国を代表する企業が現れた。1997年に89億ドルにすぎなかった外貨準備高は、2018年時点で4,037億ドルまで増加した。また、1997年の経済危機の大きな要因であった短期対外債務の対外貨準備高比も1997年の286%から2019年には28%まで低下しており、2019年第3四半期の失業率も3.3%まで改善(政府の財政投入拡大により公共事業の仕事が経ているものの)している。このような数値からは、確かに韓国経済は1997年に比べるとよくなっていると言える。

もっとも、油断はできないだろう。経済全般に関する構造改革を急がないと、経済危機に直面する可能性は高くなる。マスコミでは外国人投資家の韓国離れだけが報道されているが、実際には韓国企業や若者の韓国離れの方が深刻だ。韓国企業の韓国への投資金額の減少が強まる中で、韓国企業の海外への投資は増加傾向にある。このままだと韓国政府の雇用創出政策は失敗に終わる可能性が高い。

■韓国企業の海外への直接投資の推移

koreakeizai20191231114506.jpg

また、若者の多くが国籍を放棄している。韓国における国籍放棄者(国籍離脱者や国籍喪失者の合計)は2018年現在33,593人で、2017年の21,269人に比べて1万人以上も増加した。日本の2,262人(2018年)を大きく上回る数値である。日本に比べて韓国の国籍放棄者が多い理由としては、1)海外への留学生数が日本より多いこと(2017年基準、韓国:239,824人、日本:66,000人)、2)日本より労働市場が狭く、就職することが難しいこと、3)男性の場合、兵役の義務があることなどが考えられる。

世界的に貿易の伸びが低下し、過去のような爆発的な経済成長は期待できないのが現状である。今後は2%前後の経済成長が続くという見通しが多い。今後、韓国政府が国の富を増やし、国民の生活の質を高めるためにどのような経済対策を実施するのか注目したい。

プロフィール

金 明中

1970年韓国仁川生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科前期・後期博士課程修了(博士、商学)。独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年からニッセイ基礎研究所。日本女子大学現代女性キャリア研究所客員研究員、日本女子大学人間社会学部・大学院人間社会研究科非常勤講師を兼任。専門分野は労働経済学、社会保障論、日・韓社会政策比較分析。近著に『韓国における社会政策のあり方』(旬報社)がある

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBG「ビジョン・ファンド」、2割レイオフへ AI

ビジネス

三井住友FG、米ジェフリーズへ追加出資で最終調整=

ワールド

EU、ロシア産LNGの輸入禁止前倒し案を協議

ワールド

米最高裁、トランプ関税巡る訴訟で11月5日に口頭弁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story