韓国「変則的な大統領制」の欠陥がもたらす奇妙な選挙制度
1987年に民主化を遂げたこの国では、まず年内に大統領選挙が行われ、次いで翌年に国会議員選挙が行われた。そして、この両者の任期の「終わり」を揃えるべく、大統領の任期が5年と設定されたのに対し、国会議員の任期は1年短い4年と定められた。
加えて言えば、韓国では日本の最高裁に相当する大法院判事の任期は6年であり、結果、国会議員と大統領、そして大法院判事の任期が1年ずつずれる、という奇妙な制度になった。
こうしてちょうど太陽の周りを異なる速度で公転する様々な惑星が接近したり離れたりする様に、政権毎にそれぞれの任期の始まりと終わりが接近したり離れたりする奇妙な状況が生まれる事になった。
韓国の制度がこの様な奇妙なものになった理由は何か。それは当時の民主化が極めて急速に進んだ結果として、このいびつな制度が後の韓国政治に与える影響が十分に精査されなかったからである。
より正確に言えば、1987年の段階では多くの人々はこのいびつな制度がそれから35年も経った後にまでそのまま受け継がれるとは考えていなかった。問題があれば、それは後の人々が改正すれば良いし、改正するであろうと考えた。
つまり憲法の細かい整合性よりも、何はともあれ民主化を実現し、大統領選挙と国会議員選挙の実現を優先した訳になる。
だが問題は、様々な政治勢力の思惑もあり、その後もこの憲法が改正されず、今日まで来たことであった。その結果、韓国では各々の政権において大統領就任から異なるタイミングで国会議員選挙が行われるという奇妙な状態が出現した。そして、大統領側に国会を解散させることができない以上、大統領がこのタイミングを選ぶ事は不可能になっている。
5月10日に大統領に就任する尹錫悦(ユン・ソギョル)にとって、この問題は極めて重くのしかかる。
現在の国会の構成は全300議席のうち、現与党である「共に民主党」が172議席の圧倒的多数を占めており、尹政権の下で新与党になる「国民の力」は、わずか110議席しか占めていない。背景には、この選挙が行われた2020年4月の特殊状況が存在した。当時は文在寅(ムン・ジェイン)政権が新型コロナ禍の第1波の抑え込みに成功した時期であり、大統領である文の支持率が一時的に大きく上昇していたからである。
繰り返し述べている様に、韓国は大統領制を採用している国の1つであり、だから大統領になる尹はこの状態を改善する為に国会を解散する事ができない。次の国会議員選挙は2024年4月だから、2年近くの間、新大統領は巨大野党との対決を余儀なくされる。
韓国・尹錫悦大統領に迫る静かなる危機と、それを裏付ける「レームダック指数」とは 2024.11.13
「ハト派の石破新首相」という韓国の大いなる幻想 2024.10.16
全斗煥クーデターを描いた『ソウルの春』ヒットと、独裁が「歴史」になった韓国の変化 2024.09.10
「ディオール疑惑」尹大統領夫人の聴取と、韓国検察の暗闘 2024.08.06
韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳 2024.07.03
「出生率0.72」韓国の人口政策に(まだ)勝算あり 2024.06.05
総選挙大勝、それでも韓国進歩派に走る深い断層線 2024.05.08