コラム

日本海、エネルギーが熱い。メタンハイドレート、ロシアパイプラインの可能性

2016年02月01日(月)17時30分

 確かに不確定要素も多い。メタンハイドレートは埋蔵量が不明だし、商業利用には膨大な費用がかかる。ガスの精製方法、その埋蔵量などの検証はこれからだ。またロシアとのパイプラインは、ロシアのような不透明さを残す国が、日本に持続的にエネルギー供給するかという懸念がある。

 これらが実現化すれば、ガス業界は都市ガスも、LPガスも大きな利益を得る。そのため変化に前向きで調査もしている。しかし既得権益を奪われかねない石油会社は消極的だし、自由化でガス会社と競う電力会社は様子見のようだ。ある石油会社の中堅幹部は「既存の仕組みが回っているのだから、新しい冒険をするべきではない。石油・ガス価格が暴落したので、開発意欲もなくなるだろう」と、否定的に見ていた。

 また、パイプライン構想をめぐって日本の政財官界の要人の反応を集めたが、鈍い反応しか返ってこなかったという関係者もいて、こんな感想を述べていた。「パイプライン問題では誰もが『ロシアは怖い』で思考が止まっている。それから先、新しいことをおこす意欲を感じなかった。多分、メタンハイドレードでも同じ思考停止が起こっているのだろう」。

 パイプラインでも、メタンハイドレートでも新潟県の泉田裕彦知事が積極的に支援しているが、泉田知事は反原発を主張しているため、永田町などの一部には評判が悪い。「16年に選挙を控えた泉田知事のパフォーマンス。あまりかかわりたくない」(国会議員)と、冷ややかな声も聞く。

 理想的なエネルギー体制は常に存在しない。なぜなら社会の姿は変わり続け、エネルギーの価格は変動する。しかしエネルギー問題で、適切な政策の方向性は昔から一貫している。一つのエネルギーに片寄らず、「ベストミックス」と呼ばれるように複数のエネルギーの調達を心がけ、新しい可能性を探し続けることだ。エネルギーの新しい可能性を探し、日本の選択肢を増やすことは重要だろう。今こそ日本海でのエネルギーをめぐる変化の始まりを注目しておきたい。


プロフィール

石井孝明

経済・環境ジャーナリスト。
1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌フィナンシャルジャパン副編集長を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」“http://www.gepr.org/ja/”の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story