コラム

タリバンはなぜ首都を奪還できたのか? 多くのアフガン人に「違和感なく」支持される現実

2021年08月26日(木)17時00分

この保守的な宗教者たちは、公の議論に干渉することをためらわない。人口60万人弱の、同国では大都市であるヘラートにおいて、宗教当局が野外コンサートやバレンタインデーを禁止することに成功した例がある。

タリバンは、ほとんど知られていないアフガニスタンに根ざした、地元の政治的および軍事的な勢力を代表しているのだ。

それは田舎(主に多数派のパシュトゥーン人が住む地域)で、保守的で、都市部ではなく、英語を話すエリート層でもないのである。

フランチャイズ式のタリバン運動

さて、タリバンの支配の仕方であるが、複数の重要な拠点以外は、形式はフランチャイズだという見解がある。

呼び方も「タリバン運動」と呼ぶほうが適しているという。

つまり、たくさんのグループや派閥が、反政府勢力として連携しているということだ。

麻薬密売に関わる者たち、政治的に疎外されている部族、タリバン、アルカイーダ、その他のイスラム過激派グループなどの場合、これらが住民から現金や現物を受け取り、その一部の割り当てをタリバン本部に支払うのだという(これも何かを思い出させる......)。

また、地域の紛争を利用した戦略がよくとられているという。

具体的には、影響力を確保するために、一部の指導者が他の指導者に対して金銭的な支援を行うこと。このやり方は、部族や民族の対立、水や土地の問題を利用している。

存在が受け入れられた後は、爆発物の備蓄を行い、現地での攻撃のために若い新人に資金を提供する。

パシュトゥーン系少数民族の反ウズベク感情を利用したかと思うと、ウズベク系過激派が支配する村の協力を得る。また、地元司令官との経済協力など、いくつかの浸透手法を試みている。民族的な要素は、たくさんある要素の中の、一つの操作に過ぎない。タリバンの侵入は、イデオロギー的なものではない。

目的は、パシュトゥーン人を何らかのイデオロギーのもとに集結させることではなく、国際社会の中で増えつつある少数派が道を見失っているという見解を示すことであり、よりインパクトを与える攻撃を調整するためのルートを確保することであったという。

今までタリバンに協力をしてきた者の中には一部、過激派もいる。例えば、イスラム聖戦連合のウズベク人などのように。タリバンの司令官の中には、外国人ジハード(聖戦)主義者を、今まで共に戦ってきた戦友と考える者もいるという。

2019年1月の国連報告書では、特に中央アジア(特にタジキスタン)にもたらされる危険性が示されている。

それは、国の北東部で、タジキスタンにもまたがるバダフシャーンという地域に、現時点でタリバンの権限下にある(アルカイーダの資金提供を受けて活動しているとされる)約500人の外国人戦闘員が存在することであった。

このような外国人戦闘員の過激派勢力の問題は、今後、諸外国がタリバン政権を承認するか否かの駆け引きで、必ず議題にのぼることだろう。

現在のところ、米欧先進国の関心事は、在住民の安全の確保、超過激なテロ集団との決別の保証や、女性の権利に注がれているようだ。

超過激派「イスラム国」支持者との対立

今後どうなるかはまだ不明だが、報道では今後の不安を掻き立てる内容が多い一方で、アメリカを含む先進国は、タリバンを糾弾して「絶対に承認しない」という態度ではないように見える。

タリバンを考える上で国際的に大事な点は、「イスラム国」の支持者とは一線を画してきたことだ。

自称「イスラム国」は、2021年の3月には、支配領域をほぼ無くし、壊滅状態となった。しかし、タリバンが政権奪還を狙っていた時代は、まだ恐ろしい脅威が続いていた。

日本人から見ると(筆者もそうだが)、イスラム過激派は全部同じに見えてしまう。「イスラム国」も、アルカイーダも、タリバンも、区別がつかない。

しかし、実際にはそれぞれが異なり、大変複雑だ。

確かに、1990年代、タリバンがイスラム原理主義だった時代、アフガニスタン国内の最も過激な原理主義者と、外国のジハード(聖戦)主義者は結びついていた。だからこそタリバンは、アメリカの同時多発テロの首謀者、アルカイーダのビン=ラディンを、アフガニスタン国内にかくまっていたのだ。

両者を結びつけていたのは、どちらもスンニ派の過激派であることと、イランに代表されるシーア派への憎悪だった。

状況を大きく変えたのは、戦乱が続くシリアとイラクで勃興した自称「イスラム国」であった。いわば「頭が一つ飛び出た、超過激で巨大な敵の登場」が、この地域の政治を変えた。

もともと「イスラム国」は、国際テロ組織アルカイーダの流れを汲む。しかし、両者は絶縁状態になっていった(アルカイーダは、「イスラム国」と違い、領土をもつ組織ではない)。

理由は、同じ「ジハード(聖戦)主義の過激派」といっても、「超」がつくほど、あまりにも「イスラム国」が残虐であること。そして、「イスラム国」のバグダディが「カリフ(最高権威者)」を名乗り、世界のイスラム教徒に対して自らに「忠誠」を誓うよう求めたことだ。これが関係悪化の決定打となった。

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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