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サウジアラビアでイスラム教の在り方が大きく変化...日本人が見過ごす実態
まだ35歳のMBSことサルマン皇太子 MANDEL NGANーPOOLーREUTERS
<近年、世界で最も大きく変化している国、サウジで起きていることを知らねば中東の正しい理解はできない>
サウジアラビアはここ数年、世界の中でも最も大きな変化を遂げた国の1つだ。今から5年前、当時副皇太子だったムハンマド・ビン・サルマン(MBS)は、石油依存を低減させる形に経済を改革し、活力あふれる穏健なイスラム教国を目指すとして「ビジョン2030」を発表した。非石油分野のGDP比率が2016年の55%から20年には59%に上昇したのに加え、持ち家比率が47%から60%に増加するなど、一定の成果を上げている。
中東全体への影響という点で重要なのは、サウジにおけるイスラム教の在り方が大きく変わったことだ。サウジはかねてより不寛容で過激なワッハーブ派を信奉する原理主義国家と揶揄されてきたが、MBSは18年4月、米誌アトランティックとのインタビューで「ワッハーブ派などというものは存在しない」と述べ、それはサウジの評判を落とすための中傷であると批判した。
今年4月にサウジで放送された「ビジョン2030」5周年を記念する長尺のインタビューでも、MBSは改めてサウジはワッハーブ派ではないと主張し、サウジの憲法は『コーラン』であり、その解釈は特定の法学派や法学者に従っていないと述べた。
イスラム教は誰を指導者、何を権威と信じるかによってスンニ派とシーア派に分かれる。ただしおのおのが自らを正統と信じるため、互いの存在自体を認めない場合も多い。サウジで多数派を占めるスンニ派の中には、ハナフィー派、マーリク派、シャーフィイー派、ハンバル派の四法学派が存在する。
イスラム法学者はいずれかの学派に属して学び、法解釈を行うが、一般信徒が特定の学派に属すという考えはそもそもない。ワッハーブ派などというものは存在しないというMBSの発言は、スンニ派的に正統な立場の表明である。
一方、これまでサウジが原理主義と揶揄されても致し方ないほど厳格にイスラム法を適用してきたのも事実だ。イスラム法は『コーラン』を法源とする神の法であるため、近代的価値観に抵触する規範も多くある。女性の自由や人権が大きく制限されてきたのはその一例だ。
しかしここ数年、サウジでは女性の車の運転が解禁され、男性親族の許可なしでの旅行ができるようになるなど、女性の人権は大きく前進した。労働力人口総数に占める女性の割合も17年の19.4%から20年には33.2%へと増加し、世界銀行は19年に世界で最も女性の経済参加のための環境が改善された国としてサウジを挙げた。
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