コラム

中国が香港の抗議活動弱体化のために行なっていたこと......サイバー攻撃からネット世論操作

2020年07月27日(月)15時30分

香港抗議活動の背景

まず、日本ではあまり紹介されていない背景について簡単に紹介しておきたい。

●抗議活動の主体は若者であり、貧富の差の大きな香港の貧しい層を代表している

抗議活動が起きた原因はいくつかあるが、中国政府の法律の押しつけなどはきっかけに過ぎず、根底には香港の抱える貧富の差と、中国本土への不信感と不安がある。中国本土への不信感と不安は、中国への返還以降、中国本土から大量の移住者が香港にやってくることによって、さらに大きくなっていた。NHKの国際報道2020によると(2020年6月18日)、2020年5月末までの抗議活動関連逮捕者は累計8,986人で、6,600人が16歳から30歳までの若者ということからも活動の中心が若年層とわかる。

●香港経済界は以前から中国本土との結びつきを重視しており、抗議活動には積極的ではなかった

香港経済界と中国本土との結びつきは強い。香港が中国本土への投資窓口となっていることに加え、一帯一路の重要な戦略拠点にもなっている。香港貿易発展局(HKTDC)のサイトにも一帯一路における香港の重要性が紹介されている。

キャセイパシフィック航空がデモに参加して逮捕された従業員を解雇したことが、関係の強さを象徴している(AFP、2019年8月11日)。NHKのクローズアップ現代+(2019年9月3日)では中国本土との関係を重視する香港財界人の意見が紹介されている。

こうした背景はフェーズ1で構築され、並行して中国本土から多くの人が香港に流入した。その次にフェーズ2で法案や抗議者への攻撃が発生した。当初は抗議活動に百万人(主宰者発表)の参加者が集まり、区議会議員選挙では民主派が歴史的勝利を収めた。しかし、その後、2020年3月以降急速に抗議活動は衰退してゆく。

サイバー攻撃からネット世論操作、脅迫まで

中国政府は香港の抗議活動を弱体化させるためにさまざまな方法を用いていた。香港に留まらず、海外に向けてもネット世論を操作し、抗議活動参加者をテロリスト扱いしようとまでしていた。

ichida0727d.png

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story