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中国が香港の抗議活動弱体化のために行なっていたこと......サイバー攻撃からネット世論操作
国連人権理事会中国支持派は批判派の約2倍
日本での報道を見ていると、世界各国が一斉に中国を批判し、制裁措置を行い、世界経済から閉め出そうとしているように見える。しかし、実態はそうではない。
香港の問題が焦点となった第44回国際連合人権理事会では中国支持派が多数(53カ国)となり、およそ半分の27カ国が中国を批判する結果となった。それぞれが声明を発表したが、多数派の声明は先進諸国ではほとんど紹介されていない(THE DIPLOMAT、2020年7月6日)。
2020年6月17日に行われた中国・アフリカ 緊急サミットでは、アフリカ諸国が中国の香港と台湾に対する立場を支持し、WHOを支援するという声明が出されている。
実現すれば世界最大の自由貿易圏となる東アジア地域包括的経済連携の中心的存在は中国であり、ASEAN参加国(Bangkok Post、2020年7月21日)はもちろんアメリカのシンクタンクであるブルッキングス研究所も2020年6月16日に中国への期待を掲載しているし、中国を批判しているオーストラリアも香港の問題がこの連携に影響することはないと発言している。
また、中国のラテンアメリカへの影響はコロナでより強くなっている(Forbes、2020年7月10日)。アジア、アフリカ、ラテンアメリカは中国の一帯一路がカバーしている。先進諸国が中国にNOを突きつけても、これらの国が中国に反旗を翻すことにはならない。むしろ中国から強い結びつきを迫られる。
日本の報道は先進諸国向けの偏りがあり、グローバル・サウスでは逆の偏りがある。我々が見ている世界はフェイクニュースと言ってもよいくらい先進諸国にとって都合のよい情報に満ちた世界である。国際連合人権理事会で多数派を握られたにもかかわらず、そこには触れずに27カ国が中国を批判する声明を出したことをばかり取り上げるのはまるで大本営発表のようだ。グローバル・サウスの情報や統計を確認しなければ全体像は把握できない。中国の一帯一路の台頭は、そうしてこなかったツケだ。
さらに中国政府にとって幸いだったのは、香港を擁護し中国を非難し具体的な行動を起こした海外諸国は必ずしも民主主義的価値観にのっとっているわけではないことだ。民主主義的価値を守るなら、もっと早く強く介入していたはずだ。香港での抗議活動と、海外からの非難と制裁が同時並行していたら、中国政府にとって事態はもう少しやっかいだったかもしれない。
中国がここまで行ってきたことを整理し、その後でそれぞれの攻撃内容を確認したい。
中国政府が香港に対して行った攻撃は主にチャートのようなものと考えられる。
中国政府からの攻撃は大きく2つのフェーズに分けて考えられる。
第1フェーズは、親中国工作、第2フェーズは反中国排除である。親中国工作とは、中国本土から香港への多数の移住者を送り込むこと、経済の結びつきの強化が中心となる。前者はあまりにも多数の移住者がやってくるため、それが中国本土への不信感を募らせてしまったくらいだ。後者は本土企業との取引はもちろん、一帯一路の重要な拠点と位置づけ、そのための組織も立ち上げている。
香港は貧富の差が大きい。第1フェーズでは富裕層=経済界を取り込むことは、香港財界人が反中国に回らないようにするとともに、彼らの企業で働く従業員の活動を制御させる準備になる。第1フェーズは、前の節でご紹介した影響力を維持し続けるための仕掛けだった。
第1フェーズの後に、商店主など企業の従業員、個人事業主と貧困層が攻撃対象となった。企業の従業員、個人事業主のように守るものがある人々は経済圧力(解雇、減俸、営業停止など)や法的圧力(逮捕、拘留など)、脅迫に弱い。持たざる貧困層には強制力のある法的圧力やネット暴露(主として個人情報のリークなど)、脅迫を行った。並行して、親中国派と衝突する事件も起きた。
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