コラム

中国が香港の抗議活動弱体化のために行なっていたこと......サイバー攻撃からネット世論操作

2020年07月27日(月)15時30分

香港の抗議活動を弱体化させるためにさまざまな方法が用いられた...... REUTERS/Tyrone Siu

<中国政府は香港の抗議活動を弱体化させるためにさまざまな方法を用いていた。香港に留まらず、海外に向けてもネット世論を操作していた......>

一帯一路の影響力の拡大と維持

これまでご紹介してきたように一帯一路は経済圈構想であると同時に、「超限戦」というあらゆるものを兵器として用いる戦争でもある。中国はチャートのように経済はもちろんのこと、教育やメディアを兵器として一帯一路から世界へ影響力を広げている。

以前書いたように一帯一路参加国の人口は62%、GDPは世界の30%、エネルギー資源の75%を占めるまでとなっている(2020年07月03日)。

だが、影響力を拡大したとしてもそれが維持できなければ過渡的なもので終わる。かつて日本は世界最大のODA支援国だったが、そこで影響力を拡大し、現在につながっているとは言いがたい。

長期にわたり影響力を維持できるインフラを提供することは強制力がある。デジタル・シルクロードの多くのプロジェクトはまさにそれである。5Gネットワークインフラの提供、中国版GPS(Beidou)の提供、社会信用スコアの提供などがそれに当たる。これらは作って終わりではなく、メンテナンスが必要であり、さらにそこから常に情報を吸い上げることが可能である。ひとたび一帯一路参加国はこうしたインフラを導入したら、以後ずっと中国とつきあい続けることになる。

ichida0727a.jpg

強制力はないが、教育や文化を広げることによって中国への理解を広めておくこと、人材を育成することでその効果はさらに高まる。ソフトパワーの拡大である。まず、影響力を確立するために多額のローン貸し付け、軍事拠点の設置、教育支援、中国系民間企業の進出などが行われ、次に影響力を維持するために社会信用システムの導入、中国版GPS(Beidou)の導入、孔子学院の設置、条約や法制度による縛り、国際標準を主導することが行われている。

香港でも「超限戦」が行われていた

最近、世界の注目を集めている香港でもさまざまな手段を用いて、抗議活動を鎮圧する超限戦的戦いが行われていた。それをご紹介する前に、前提としてお話ししておきたいことがある。

現在行われている香港の抗議活動は貧富の差にあえぐ若者が主体であり、経済界などは必ずしも反対の立場をとっているわけではない(脅迫などにより反対できなくなった人々もいる)。それを象徴するように抗議活動参加者と抗議活動に反対する人々との間で衝突も起きている。

中国政府からの経済的圧力、ネット上での攻撃、直接的な脅しなどによって、反対派は徐々に切り崩されている。その結果、抗議活動は大幅に後退した。参加者数でいえば百万人から数百人まで減った。中国政府から見た場合、香港の鎮圧はほぼ終了し、現在はこれを問題視する諸外国との調整のフェーズに入っていると考えられる。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ政権、対中テック規制を棚上げ 米中首脳会談

ビジネス

仏サノフィ、ハドソンCEOを解任 後任に独メルクの

ビジネス

英GDP、第4四半期は前期比0.1%増 通年は1.

ビジネス

〔情報BOX〕主要企業の想定為替レート一覧
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story