コラム

中東専門家が見た東京五輪、イスラエルvsイスラーム諸国

2021年08月16日(月)11時25分
東京五輪、エジプトのフェルヤール・アシュラフ選手

女子空手組手61キログラム超級で金メダルを獲得したエジプトのフェルヤール・アシュラフ。エジプト人女性として初の金メダリストとなった Annegret Hilse-REUTERS

<スポーツの国際大会で毎度のように問題になるのがイスラエルの存在。今回の東京五輪でも、イスラエル選手との対戦を避けるための棄権があった。一方で今回、サウジアラビアには変化も起きていた>

新型コロナウイルス感染拡大が一向に収まらないなか、とにもかくにも東京オリンピックが終了した。オリンピックにそれほど関心はなかったものの、専門がら中東の選手の活躍には注目していた。

金メダル獲得数でいうと、中東(北アフリカを含む)ではイランが金3つで、中東で1位。それに金2つのトルコ、イスラエル、カタル(カタール)がつづいた。そのほか、エジプト、チュニジア、モロッコも金メダルを1つずつ獲得している。

ちなみにメダルの総数では中東の1位は13個のトルコが7個のイランを逆転する。それにエジプトが6個、イスラエルが4個となる。

hosaka20210816olympics-chart.png

筆者作成

中東が強いスポーツというとすぐに格闘技が思い浮かぶかもしれない。今大会でもお家芸ともいえるレスリングのほか、柔道、空手、テコンドー、ボクシングで中東諸国はプレゼンスを示していた。また、重量挙げも伝統的に中東諸国は有力な選手を輩出しているし、射撃も強い。

マグリブ(北アフリカ)諸国は、陸上中長距離が強いという地域的特性もある。モロッコの英雄サイード・アウィータやヒシャーム・カッルージュ(ゲッルージュ)、ナワール・ムタワッキル、アルジェリアのヌールッディーン・モルセリーらの名前がすぐに思い浮かぶ。今回もモロッコのスフヤーン・バッカーリーが陸上男子3000メートル障害で優勝している。

そのほか、陸上ではカタルのムァタッズ・イーサー・バルシムが走り高跳びで金メダルを獲得し、バハレーン(バーレーン)のカルキダン・ゲサヘグネが女子1万メートルで銀メダルを取った。

今回もメダルをとった湾岸の小国カタルとバハレーンも中東の陸上強国である。ただ、この両国、スポーツ政策には特徴がある。

しばしば批判の的となるのだが、両国とも自国生まれの選手ではなく、外国生まれの有力選手に国籍を付与して、活躍させてきたのだ。バハレーン最初のオリンピック・メダリスト、マルヤム・ユースフ・ジャマールはエチオピア生まれだったし、残り3人のメダリストもケニア出身2人、エチオピア出身1人というぐあいである。

カタルのメダリスト7人のなかにもソマリア、ブルガリア、エジプト出身者が含まれている。ただし、今回、走高跳で金メダルを取ったバルシムは、カタル生まれのカタル人である(母親はスーダン人)。残る一人、射撃で銅メダルを獲得したナーセル・アティーヤはラリードライバーとして知られている。アティーヤというのはカタルでは著名な一族なので、もしかしたら彼もその名家出身かもしれない。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story