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焦点:衝撃与えたトランプ氏「ガザ所有」発言、新政権の領土拡大主義反映か

2025年02月06日(木)15時28分

「米国がパレスチナ自治区ガザを長期的に保有し、再開発する」――。誰もがあっけにとられたトランプ米大統領によるこの発言は、突然降って湧いたように聞こえるが、実は新政権が持つ領土拡大主義の側面と符合する。2月4日、ホワイトハウスで撮影(2025年 ロイター/Leah Millis)

James Oliphant

[ワシントン 5日 ロイター] - 「米国がパレスチナ自治区ガザを長期的に保有し、再開発する」――。誰もがあっけにとられたトランプ米大統領によるこの発言は、突然降って湧いたように聞こえるが、実は新政権が持つ領土拡大主義の側面と符合する。

選挙戦中にややこしい対外関係や「永久的な戦争」から米国を解き放つと約束してきたトランプ氏だが、大統領に復帰して以降は新領土獲得を狙う姿勢を見せている。つまり自身が本来掲げてきた「米国第一」路線は「より大きな米国」路線へ変異しつつある。

トランプ氏が米国によるガザ所有の可能性に言及したのは、4日にイスラエルのネタニヤフ首相と開いた共同記者会見の場。ガザにリゾート施設を建設し、さまざまな国や地域の人が仲良く暮らすという構想を打ち出した。

思い付きのようなこの発言は、中東だけでなく世界全体に衝撃を与えたが、第2次トランプ政権の特徴を表しているとも言える。それは世界を一つの大きな商機とみなし、カナダやメキシコといった緊密な同盟諸国でさえ、まるで取引相手として扱う姿勢だ。トランプ氏が3日、米国の政府系ファンド(SWF)立ち上げを提案したのも、こうした姿勢を浮き彫りにしている。

これまでもトランプ氏は、パナマ運河の管理権奪回やデンマーク自治領グリーンランドの購入などに意欲を示し、カナダは米国の51番目の州になるべきだとの考えを繰り返してきた。ただロイター/イプソスの世論調査を見る限り、これらのアイデアは与党共和党員でさえほとんど支持していない。

トランプ氏は、ガザがイスラム組織ハマスとイスラエルよる激しい戦闘で「居住不能」になったとして、200万人を超える同地のパレスチナ人を移住させることも提案。人権団体から「民族浄化(エスニック・クレンジング)」だと厳しい非難を浴びた。強制的な移住は国際法違反となる公算も大きい。

ネタニヤフ氏との共同会見で見せたトランプ氏の振る舞いは、かつての不動産企業経営者を思い起こさせる。ガザ住民の苦境は続くと認めつつも「ガザは国際的で信じられない場所になる。ガザの潜在的な力は信じられないほどだと思う。そして全世界、あらゆる方面からやってきた人々がそこで暮らす。パレスチナ人もそこで生活するだろう」と語った。

トランプ氏の義理の息子であるジャレッド・クシュナー氏は昨年、ガザを「価値の高い」ウォーターフロント物件だと評している。

ネタニヤフ氏、トランプ氏とも米国主導のガザ再開発案に合法性があるのかどうかは明らかにしていない。

もっともトランプ氏は、米国のガザ所有を真面目に話しているわけではなく、交渉戦略の一環で極論を展開しているのではないか、とシンクタンクの大西洋評議会(アトランティック・カウンシル)で中東プログラムのシニアディレクターを務めるウィル・ウェクスラー氏は指摘する。

ウェクスラー氏は「トランプ大統領はいつものやり方に従っているに過ぎない。交渉の成果を想定した上で、自身の交渉力を強めるためにゴールポストを動かすということだ。今回の場合は、将来的なパレスチナの統治に関する交渉が念頭にある」と述べた。

<米国民の支持得られぬ構想>

とはいえトランプ氏の提案は、パレスチナ国家樹立によるイスラエルとの「2国家共存」を否定し、米国が地域の緩衝材として関与する新たな枠組みが望ましいと唱えているように見受けられる。

シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)で中東プログラムを統括している元国務省高官のジョン・オルターマン氏は、ガザ住民が自主的に同地を離れる公算は乏しいとした上で「多くのガザ住民の先祖は、現在イスラエル領となっている地域から逃げてきた人々で、以前住んでいた場所には戻れない。いくらガザが廃墟になっていても、多くの人が進んで出て行くかどうかは疑わしい。住民を移住させて大規模な再開発をすることで幸せな結末を迎えるとは想像しがたい」と警告した。

実際4日にホワイトハウス前でネタニヤフ氏の訪米に抗議していた数十人の人々は、トランプ氏のガザを巡る発言が伝わると「トランプとネタニヤフは刑務所行きだ。パレスチナは売り物ではない」などと叫んでさらに気勢を上げた。

トランプ氏は選挙期間中の言動は、総じて伝統的な孤立主義者を体現しており、例えばロシアと戦争するウクライナの大義は米国よりも欧州が主に背負うべきだなどと主張していた。

そこに領土拡大主義の姿勢を見ることはなかったし、このような考えはトランプ氏と共和党にとって政治的なリスクをもたらすかもしれない。有権者の賛同が得られていないからだ。

トランプ政権発足直後の1月20─21日に実施したロイター/イプソスの調査によると、米国がデンマークにグリーンランド売却を迫ることに賛成したのは全体の16%、パナマ運河管理権奪回支持は約29%にとどまった。

米国が西半球で領土を広げることへの賛成は21%、米国が新領土保全のために軍事力を行使することに同意すると答えたのは9%、共和党に限っても15%に過ぎなかった。

ロイター
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