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米大統領権限で3カ国に関税、法的根拠巡り専門家から異論 訴訟リスクも

2025年02月02日(日)15時45分

 トランプ米大統領が1日、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に追加関税を課す大統領令に署名した。今回の追加関税は、大統領に広範な権限を与える国際緊急経済権限法(IEEPA)を法的根拠としたが、貿易・法律の専門家からは適用に異論が出ている。メキシコ・シウダーフアレスで1日撮影(2025年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

David Lawder

[ワシントン 1日 ロイター] - トランプ米大統領が1日、カナダ、メキシコ、中国からの輸入品に追加関税を課す大統領令に署名した。今回の追加関税は、大統領に広範な権限を与える国際緊急経済権限法(IEEPA)を法的根拠としたが、貿易・法律の専門家からは適用に異論が出ている。IEEPAを巡り重要な先例になる可能性があり法廷闘争に直面する可能性が高いという。

IEEPAは、主に経済制裁の法的根拠となり、関税では今回が初めてとなる。トランプ氏は第1次政権の2019年にメキシコに対しIEEPAに基づく追加関税の発動方針を表明したが実施には至らなかった。

ワイリー・ライン法律事務所の国際貿易実務の共同議長を務めるティム・ブライトビル氏は「問題となるのは、IEEPAが関税でも使えるかということだ。これまでは制裁措置にしか使われてこなかった」と述べ、企業や業界団体が差し止めを求める訴訟を起こす可能性があると指摘した。

今回の措置に最も近いのは、1971年のニクソン政権(当時)による10%の一時的な追加関税だ。ドルと金の交換停止後に国際収支が悪化する中、輸入増加を食い止めるためとして、IEEPAの前身である1917年敵国通商法(TWEA)に基づき発動した。

通商法が専門のジェニファー・ヒルマン・ジョージタウン大学教授は、ニクソン政権の追加関税を裁判所は支持したが、トランプ政権の追加関税は緊急事態に適合しないとの見方を示す。

ニクソン政権の関税を巡る裁判の判決やIEEPAにおける報告要件文言は、緊急事態(フェンタニル、移民)と是正措置(カナダ、メキシコ、中国に対する関税)に因果関係がなければならないとしている。

「少なくとも、このケースにそのような関連性があるとは思えない。関税の対象はフェンタニルだけでない。フェンタニルや移民の問題に対処するために全ての品目に関税を賦課することが『必要』だという明確な根拠はない」とヒルマン教授は指摘する。

新アメリカ安全保障センター(CNAS)の上級研究員ピーター・ハーネル氏は、もし裁判所が関税についてIEEPAを根拠とすることを認めるのであれば、議会がIEEPAを改革し、その運用について監視を強めるべきだと考える。

「しかし、少なくとも裁判所は、トランプ大統領によるIEEPAを根拠とする(関税発動の)大統領令を認めることは、関税の権限を大統領に委譲する際に議会が長年求めているバランスを崩すことになると判断すべきだ」と1月31日付のメモで述べた。

ロイター
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