ニュース速報
ワールド

アングル:トランプ次期米大統領、グリーンランドの購入は可能か

2025年01月08日(水)13時57分

1月20日に政権に返り咲くトランプ次期米大統領が北大西洋条約機構(NATO)加盟国デンマークの自治領グリーンランドを米領土の一角に取り込みたいとの意欲を改めて表明している。写真は、個人的な訪問として現地入りした、長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏。7日、主要都市ヌークで撮影。 Emil Stach/Ritzau Scanpix提供写真(2025年 ロイター)

Jacob Gronholt-Pedersen Louise Rasmussen

[コペンハーゲン 7日 ロイター] - 20日に政権に返り咲くトランプ次期米大統領が北大西洋条約機構(NATO)加盟国デンマークの自治領グリーンランドを米領土の一角に取り込みたいとの意欲を改めて表明している。1期目の2019年に初めて購入意向を表明し、デンマーク政府に提案したものの一蹴されていた。グリーンランド自治政府も拒絶した。

トランプ次期大統領は今回、前年末に続き年明け6日にも購入意向を表明。自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」で「信じられないほど素晴らしいところで、わが国の一部になれば(グリーンランドの)人々は多大な恩恵を受けるだろう」と書き込んだ。

7日には長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が個人的な訪問として現地入りし、その後にトランプ次期大統領は「これは実現しなければならないディール(取引)だ」と発言した。

◎トランプ氏は購入できるのか

グリーンランド自治政府のエーエデ首相は最近、独立に向けた動きを強めている。ただ、繰り返し強調するのがグリーンランドは売り物ではないし将来を決めるのは住民の判断に委ねられているという点だ。

同首相は7日、「(グリーンランドの住民ではない)デンマーク人や米国人らには意見を言う権利があるものの、われわれは病的な興奮状態に巻き込まれたり、外部からの圧力に惑わされたりして進路を逸らされるべきではない」と切って捨てた。

グリーンランドはかつてデンマークの植民地だった。1953年に正式な領土の一部となってデンマーク憲法の適用下にある。このため法的地位の変更には憲法改正が欠かせない。2009年には、住民投票を通じてデンマークからの独立を宣言する権利を含む広範な自治権が付与された。

米国政府は以前にも領土欲を示しており、東西冷戦期のトルーマン政権が戦略的資産として1億ドル相当の金塊で購入しようとしたが、当時のデンマーク政府は植民地だったグリーンランドの売却を拒否した。

◎グリーンランドが独立したら何が起きるか

仮にグリーンランドが独立した場合、米国と連携する選択肢もある。

グリーンランド住民の大多数は独立を望んでいるが、完全な独立が現実的だと考える人はほとんどいない。欧州連合(EU)の一員であるデンマークに経済面で依存しているためだ。

選択肢の1つは、太平洋島しょ国のマーシャル諸島やミクロネシア、パラオの地位に似た、いわゆる自由連合盟約(COFA)を米国と結ぶことだ。

デンマーク国際問題研究所の上級研究員でグリーンランド専門家ウルリク・プラム・ガド氏は「グリーンランドではデンマークからの独立が話題に上がっているが、支配者を新しくしたがっている人はいない」と話す。住民福祉が確保されない限り独立の是非を問う住民投票をしても賛成派は勝ちそうにないと見ている。

◎トランプ氏が関心を持つ理由

グリーンランドは米軍にとって戦略的重要性があり、弾道ミサイルの早期警戒システムを設置している。欧州から北米に至る弾道ミサイルの飛行ルートはグリーンランド上空を通過するのが最短になるためだ。

グリーンランド北西部のピツフィク空軍基地には米軍が常駐しているが、米国はグリーンランドでの軍事的な影響力を高める意向を示しており、グリーンランドやアイスランド、英国間の海域を監視するレーダーの設置を検討している。ロシア海軍の艦艇や原子力潜水艦には同海域が重要通航ルートになっているためだ。

ウルリク・プラム上級研究員によると、グリーンランドは地理的に北米大陸の一部であり、米国にとっては他の主要国が足場を築かないようにするのが極めて重要という。

また、グリーンランド主要都市ヌークはデンマークの首都コペンハーゲンよりも米東部ニューヨークに近い。鉱物や石油、天然ガスといった資源も豊富だが、石油と天然ガスの採掘は環境上の理由から禁止されており、鉱業開発は官僚主義と先住民の反対で行き詰まっている。

グリーンランド経済は漁業頼みで、予算の約半分はデンマーク政府の補助金に依存している。

◎デンマーク政府の方針

デンマーク政府は過去にグリーンランドで歴史的に深刻な問題を引き起こしていたことが暴露され対立が先鋭化した。その後に改めて出てきたのがトランプ氏の再度の購入意欲表明だ。

デンマークのフレデリクセン首相は19年、トランプ氏が大統領1期目に購入を言い出した際は「ばかげている」と非難した。

フレデリクセン氏は今週7日にトランプ氏が再度意欲を示した際に感想を求められ「米国と非常に緊密に協力する必要がある」と述べつつ、「グリーンランド住民を国民として尊重するよう、皆にお願いしたい。グリーンランドの未来を決定し、方向付けられるのはグリーンランドだけだ」と付け加えた。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ氏関税巡る報道で米

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、指標やトランプ関税巡る報

ビジネス

FOMC参加者、インフレリスク高まり指摘 次期政権

ワールド

ロシア、ウクライナ南部ザポロジエを誘導爆弾で攻撃 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国の宇宙軍拡
特集:中国の宇宙軍拡
2025年1月14日号(1/ 7発売)

軍事・民間で宇宙覇権を狙う習近平政権。その静かな第一歩が南米チリから始まった

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵の遺族を待つ運命とは? 手当を受け取るには「秘密保持」が絶対
  • 2
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」
  • 4
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    仮想通貨が「人類の繁栄と自由のカギ」だというペテ…
  • 7
    マクドナルド「多様性目標」を縮小へ...最高裁判決の…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 10
    日本の「人口減少」に海外注目...米誌が指摘した「深…
  • 1
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵の遺族を待つ運命とは? 手当を受け取るには「秘密保持」が絶対
  • 2
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流行の懸念
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 7
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 8
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡…
  • 9
    「日本製鉄のUSスチール買収は脱炭素に逆行」買収阻…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中