ニュース速報
ワールド

焦点:トランプ氏勝利でも衰えない「不正選挙」の主張

2024年12月03日(火)18時38分

 12月2日、 トランプ次期米大統領は11月5日の大統領選に勝利した後、選挙制度には不正投票を許す欠陥があるという根拠のない主張を口にしなくなった。ミシガン州デトロイトの投票所で同日撮影(2024年 ロイター/Emily Elconin)

Peter Eisler Ned Parker Nathan Layne Joseph Tanfani

[2日 ロイター] - トランプ次期米大統領は11月5日の大統領選に勝利した後、選挙制度には不正投票を許す欠陥があるという根拠のない主張を口にしなくなった。しかしトランプ氏が旗を振って始まった現行の選挙制度を否定する運動はなくなるどころか、一部地域ではむしろ勢いを増しているようだ。

2020年の大統領選結果は不正に操作されたとのトランプ氏の主張を広める役割を果たした各州や連邦レベルの共和党幹部らは、26年の中間選挙に向けて選挙制度の劇的な改革を推進すると息巻く。彼らを取材すると、選挙の正当性を巡る不安に対処し、適切な是正措置を提案しているとの声が聞かれた。

しかし選挙管理当局者や公平な投票権の確保を提唱する市民団体は、別の狙いがあると見ている。新ルールによって共和党に有利な選挙構造を固定化し、自分たちが好む候補者が落選した場合は選挙結果に不信感を植え付けるための地ならしをしているのだという。

米国の選挙制度の信頼性を攻撃する候補者の動きを追っている市民団体、ステーツ・ユニオン・アクションのシニアバイスプレジデント、リジー・ウルマー氏は「選挙否定運動は生き残るために進化し、変貌を続けている」と指摘。その結果として運動は勢力と影響力を保持していると付け加えた。

トランプ氏とその周辺者が20年の大統領選敗北後に主張した不正事案の多くは、既に虚偽であると暴露されている。選挙否定運動は、有権者が登録時に市民権保有を証明する書類の提示義務化を要求するが、相当数の不法移民が実際に投票したという証拠は乏しい。また運動が求める郵便投票と投票用紙回収箱に対する規制についても、組織的な不正との関連は見つかっていない。

トランプ氏と共和党全国委員会(RNC)の広報担当を務めるクレア・ザンク氏は「常識的な」選挙改革が必要であり、トランプ氏は公約を守って全米の選挙を安全安心なものにする決意だとコメントした。

ロイターは今回、選挙事務従事者や選挙法令厳格化の推進派と反対派の双方の関係者20人余りから話を聞いた。その中には、ちょっとしたルール変更で投票率と選挙結果に影響が及ぶ可能性がある7つの激戦州の人々も含まれる。

11月5日の選挙では、20年の大統領選敗北は不正のためだとのトランプ氏の主張を正式に支持すると表明した共和党の候補者が続々と当選を果たした。トランプ氏は今年、党内の支配力強化に向けて自身に忠実でない人物を排除し、こうした不正論を認めるかどうかを忠誠心のリトマス紙にしていた面もあった。

ステーツ・ユナイテッド・アクションによると、今年の連邦議会選挙で20年の選挙結果を否定した共和党候補が上下両院合計143人勝利したほか、州の議員や幹部も6人ほど当選している。

選挙否定派はトランプ次期政権の要職にも進出。フロリダ州司法長官を務め、20年の敗北を覆そうとしたトランプ氏を明白に支持したパム・ボンディ氏は連邦政府の司法長官に、第1次トランプ政権のホワイトハウス高官で、やはり不正論を拡散させていたカシュ・パテル氏は連邦捜査局(FBI)長官にそれぞれ指名された。

選挙不正が全米に広がっているとの主張を広めた共和党アリゾナ州議会議員のマーク・フィンチェム氏は「われわれ(選挙否定派)がトランプ氏勝利によって消え失せると思ったら間違いだ」と強調し、今後も自身や仲間は州の選挙法改革に「最優先」に取り組んでいくと付け加えた。

連邦レベルでも上下両院で共和党が多数派となったことから、有権者登録時に市民権の証明を義務づける「米有権者資格保護法案」が可決される道筋が見えてきた可能性もある。大半の民主党議員は、本来資格のある有権者から投票権を奪ってしまうとの理由でSAVE法に反対してきた。

同法案は昨年下院で可決されたが、民主党が優勢だった上院は通過していない。しかし同法の提案を主導した上下両院の共和党議員はロイターに、再提出する意向を示した。下院で選挙法を管轄する小委員会の委員長を務めるロイ議員は「優先処理対象になるのは間違いない」と述べた。

20年の選挙結果についてロイ氏自身は異を唱えていないが、同法案の提出に際しては保守派弁護士のクレタ・ミッチェル氏とトランプ氏顧問のスティーブン・ミラー氏から助言を受けた。2人とも選挙否定運動の有力者だ。

ロイ氏はロイターに、来年1月に始まる議会で共和党は現行の選挙制度の改革を検討し、投票日までの90日以内に州が有権者名簿を修正することを禁止したルールを撤回する可能性も考慮すると明かした。

ミッチェル氏は、自らが組織した団体「エレクション・インテグリティー・ネットワーク」が議会とトランプ次期政権に連邦選挙法の抜本的見直しを要望する意向で、有権者の身分証明義務化や郵便投票受け付けの期間短縮などを求めるとしている。

ただ選挙管理当局者や投票権擁護団体らは、トランプ陣営が要求する改革措置の多くは不要で、憲法違反のケースさえあると批判する。例えば期日前投票や郵便投票の制限は、正当な有権者の投票行動に対するより大きな足かせになるという。

<勢いづく懐疑派>

一部の激戦州では今回のトランプ氏の勝利によって選挙懐疑派が勢いを得ており、ジョージア州の共和党は新たな投票ルール制定を表明している。

11月5日の投票日に先立ち、定員3人全員がトランプ氏支持者のジョージア州選挙管理委員会は、州当局者が選挙結果認定に票を入れない権利を認め、手作業による開票作業を求める新たなルールを提案。州の裁判所が同ルールを差し止めたが、共和党が控訴した。

ジョージア州共和党トップのジョシュ・マックーン氏は来年1月の州議会で改めて法制化を目指す考えを示している。ただケンプ州知事とラフェンスパーガー州務長官は同じ共和党ながら、20年にトランプ氏から敗北を覆すための票を見つけ出すよう圧力を受けながらも屈しなかっただけに、州議会でのそうした提案には反対しそうだ。

マックーン氏は、選挙管理委員会が事務作業に関する調査を行って、不手際があったと見なした職員を解任できるよう予算を増額することも望んでいる。特に州内で最も人口が多く、黒人の政治運動の中心地になっているフルトン郡を問題視した。

民主党や投票権擁護団体は、フルトン郡をやり玉に挙げるのは、黒人と民主党の票を抑圧する取り組みを隠すための口実だと話す。

これに対してマックーン氏は、そうした批判は選挙制度の問題に目を閉ざすもので「失礼な態度だ」と反論した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ11月CPI、前年比0.95%に伸び加速 予想

ワールド

フィリピンと中国、スカボロー礁周辺の衝突で非難の応

ビジネス

韓国政府、流動性「無制限」注入も 中銀臨時会合で市

ワールド

台湾総統の米ハワイ訪問、中国が「独立追求」と批判
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 6
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 7
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 8
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 9
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 10
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 7
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中