焦点:ロシアの中距離弾道弾、西側に「ウクライナから手を引け」と警告か
ロシアのプーチン大統領は、最新式の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」をウクライナに発射したことを通じて、西側諸国に単純明快なメッセージを送った。11月21日、モスクワで代表撮影。Sputnik/Vyacheslav Prokofyev(2024年 ロイター)
Guy Faulconbridge
[モスクワ 22日 ロイター] - ロシアのプーチン大統領は、最新式の極超音速中距離弾道ミサイル「オレシニク」をウクライナに発射したことを通じて、西側諸国に単純明快なメッセージを送った。「ウクライナから手を引け。さもなくば、ロシアは米国と英国の軍事施設を攻撃する権利を持ち続ける」と。
プーチン氏は21日に発表した特別声明でオレシニク発射について、ウクライナが米国と英国から供与された長射程兵器でロシア領を攻撃したことへの直接的な報復だと主張。地域紛争はグローバルな戦争に向かってエスカレートしつつあると警告した。
一方でプーチン氏は核に関する言及は避け、今のところ西側を実際に攻撃する行動も控えている。そうした攻撃はロシアと北大西洋条約機構(NATO)の直接衝突に発展しかねず、バイデン米大統領は2022年3月、この事態は第三次世界大戦につながる可能性があると述べた。
現時点では、プーチン氏が軍事施設攻撃の権利を有するとした対象国で、ウクライナにロシア領攻撃を許した西側諸国に該当するのは米国と英国だけだ。
元ロシア大統領顧問のセルゲイ・マルコフ氏はロイターに「プーチン氏は西側に(ウクライナ支援を)停止し、もう出しゃばるなと語りかけている。われわれは(長射程兵器による)攻撃を、米英がロシアとの直接戦争に突入したものと考える。だが、今回の攻撃が戦争の結果を覆すものでない以上、ロシアとしても全力で反撃はしない、というのがプーチン氏の西側に対するシグナルだ」と説明した。
別のロシア関係者は、プーチン氏が戦争のエスカレーションは避けたいと示唆しているものの、ロシアが核兵器を使用する確率は依然としてかなり高いとの見方を示した。この関係者は、戦術核と戦略核のどちらについて話しているのかは明らかにしていない。
<戦略兵器に軸足>
複数のロシア政府高官の見立てでは、米国がウクライナに長射程兵器でのロシア領攻撃を容認したのは、退任間近のバイデン政権がトランプ次期大統領にわざと収拾の責任を押しつけるために深刻な危機を発生させようとする無謀な決断だという。
ただこうした状況がプーチン氏をジレンマに陥れている。自らが今、戦争をエスカレートさせれば、まさにそのような危機をもたらす。逆に何もしなければ、西側が同氏を弱腰だと解釈し、ロシアにとって譲れない一線を越え続けさせてしまう。
プーチン氏は9月、たとえ通常兵器であっても西側のミサイルによってロシアが攻撃された場合、核ドクトリンの基準を変更すると発言。実際にウクライナが米国製地対地ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」をロシア領に発射した日に、核使用のハードルを下げることを承認した。
21日の特別声明に込められた主なメッセージに関して聞かれたロシア大統領府のペスコフ報道官は、ロシア領攻撃に加わる西側諸国からの「無謀な行動」にロシアは必ず対抗するという点が大事だと答えた。
プーチン氏は、米英の軍事施設が標的になる可能性に触れたほか、欧州とアジアに短距離と中距離のミサイルを配備する米国の計画は、ロシアが同様に西側諸国のより近くにミサイルを置く動きにつながると述べた。
オバマ元米大統領の核不拡散担当特別補佐官で、現在は米国科学者連盟でグローバルリスク担当ディレクターを務めるジョン・ウォルフスタール氏は「プーチン氏は米国とNATOにウクライナ支援をやめさせる手段として、核や長距離ミサイルを含めた戦略兵器への依存を高めるというシグナルを発しているのは間違いない。今勝ちつつある戦争にあえて核兵器を投入する意図があるとは思えないが、西側を大いに心配させ、トランプ氏が(ウクライナ支援から)撤退しやすくしようとしているように見える」と語った。
<入念な計算>
マルコフ氏は、プーチン氏の特別声明はロシア国民に向けられた面もあると話す。ロシア国内ではプーチン氏に西側を直接攻撃するよう求める声が多いという。
「オレシニク」はロシア語で「クルミ」を意味しており、1988年のブルース・ウィリス主演映画「ダイハード」のロシア語タイトルも「クレプキー・オレシニク(固いクルミ)」だった。このため通信アプリのテレグラムに登録された親プーチン派のチャンネルでは、同氏を「クレプキー・オレシニク」と呼んでヒーロー扱いする言葉遊びも広がっている。
チェチェン共和国のカディロフ首長もプーチン氏の特別声明を称賛した上で「暖かく平穏無事な世界にいる西側の人々に、本当の戦争で身も凍る思いをさせよう。彼らは本気でロシアと戦争したいのか。それならたっぷり味わわせてやろうではないか。ロシアの長距離兵器が持つ殺傷力を全面的に誇示する必要がある」と訴えた。
もっとも、今回のオレシニクの発射は入念に計算されたものだと複数の専門家は分析している。
ペスコフ報道官は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)ではなく中距離弾道ミサイルという性質上、ロシアは米国に発射を事前通告する義務はなかったが、30分前には知らせたと説明した。
その半面プーチン氏は、核弾頭搭載が可能で欧州ないし米西海岸に届くオレシニクを報復手段として選び、西側に同氏の決意をみくびるなとくぎを刺した形だ。