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アングル:仏選挙の決選投票、左か右か 穏健派に究極の選択 

2024年07月03日(水)18時30分

 今年80歳になる元教師のデニス・ロレさんにとって、7月7日にフランスで行われる国民議会(下院)選挙決選投票は、好ましい選択肢が存在しない。写真は1日、クレピアンバロワの街頭に貼られた選挙ポスター(2024年 ロイター/Christophe Van Der Perre)

Sybille de La Hamaide

[クレピアンバロワ(フランス) 2日 ロイター] - 今年80歳になる元教師のデニス・ロレさんにとって、7日にフランスで行われる国民議会(下院)選挙決選投票は、好ましい選択肢が存在しない。

パリ北東部の中間層が集まる小さな町、クレピアンバロワで暮らすロレさんが迫られているのは、マリーヌ・ルペン氏が事実上率いる極右「国民連合(RN)」の候補者か、急きょ結成された左派連合の一角を占める社会党が擁立する候補者かの選択。いずれも絶対的な拒否感があるので「誰に投票したらよいか、率直に言って全く分からない」と困惑する。

RNが政権を握る可能性がある決選投票を前に、フランス全土でロレさんと同じ悩みを抱える穏健派の有権者は多い。

今回の選挙に向けてRNは移民や生活費の問題を重視し、主流の右派政党に衣替えしようと努力してきた。しかし過去に人種差別や反ユダヤ主義との関係があったことから、今も主要政党から「除け者」扱いされている。

6月30日の第1回投票で得票率トップとなったRNだが、決選投票で過半数議席を得て首相を選出し、マクロン大統領との「保革共存政権」を樹立できるかどうかはまだ分からない。

1回目の投票結果を受け、RNの過半数獲得を阻止しようと、反極右票を一本化して「共和戦線」を立ち上げるための選挙協力や候補者調整が進められている。

とはいえ、第1回投票でマクロン氏の与党連合が得票率3位にとどまったことは、同氏による7年間の統治下で有権者の主流政党に対する期待感が失われ、左右両極に支持が流れつつある状況も浮き彫りにした。

穏健的な有権者からすると、妥当な投票先が乏しいことを意味する。

同じクレピアンバロワで隠退生活を送っているシャルル・エデュアエール・パランさんは、自身や知人らは両極の候補者のどちらも選べないため、白票を投じるつもりだと明かした。

クレピアンバロワが属する選挙区は1993年以降、中道右派の共和党が保持してきた地盤で保守色が強い。

その共和党は、左右両極勢力の支持拡大のあおりで党勢が後退。1回目の投票直前には、少数のRN合流組と多数の残留組に分裂し、この選挙区の有権者の票もそうした流れに従った。

<共和戦線が機能するか>

同選挙区からRNの候補者として出馬しているフレデリック・ピエール・ボス氏は第1回投票で得票率42%を得てゆうゆうと勝利。マクロン氏や中道、左派の諸勢力がRNでない候補者への投票を呼びかけているものの、ボス氏は決選投票でも勝利に自信を持っている。

ボス氏の話では、この選挙区で現職の共和党議員だったピエール・バタン氏が決選投票に進めず、左派候補との対決になったことで自分が勝つチャンスが広がったという。

フランス政治が専門の英オックスフォード大学のSudhir Hazareesingh氏は、ボス氏の直感は正しいとみる。左派支持者は総じて極右排除のために中道候補に投票する傾向が強い半面、中道支持者と右派支持者は決選投票でRNに対抗する左派候補に票を入れるのをためらっているとの見方を示した。

元ビジネスマンのパスカル・オダンさん(71)は、第1回投票では「支離滅裂な」極左の当選を阻止するためにRNに投票したと述べ、今は極右にチャンスを与える時期だと主張。「何も壮大な経済政策を望んでいるのではなく、快適な暮らしや生活水準を維持したいだけで、その点で(RNに)賛同できる」と説明した。

クレピアンバロワの選挙区で社会党から出馬したベルトラン・ブラサン氏は、決選投票で勝利する鍵は、左派は嫌いだがRNはもっと嫌いだというマクロン氏の支持者と、残り少ない共和党支持者を取り込めるかどうかだと話す。

ブラサン氏は「多くの有権者にとって私は社会主義者だが、どのような意味でも共和国の社会主義者だ」と訴え、共和戦線が100%機能すれば勝てるが、50%しか機能しないならば敗北が待っていると付け加えた。

ロイター
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