アングル:往来できないパレスチナ人労働者、イスラエル経済にも打撃
昨年10月7日にイスラム組織ハマスが奇襲攻撃を仕掛けて以来、イスラエルはヨルダン川西岸およびパレスチナ自治区ガザとの境界を治安上の理由から封鎖し、パレスチナ人労働者の入境を禁止した。写真はテルアビブで2日撮影(2024年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins)
Steven Scheer Ari Rabinovitch Ali Sawafta
[エルサレム/ラマラ(ヨルダン川西岸) 21日 ロイター] - イスラエルのエルサレムで建設中の三階建て倉庫の工事現場は、薄暗い一角で大きな機械音が鳴り、金属パイプをきしませ、その反対側では2人の作業者が未完成の床材と格闘している。しかし、それ以外の場所には誰もいない。
6カ月前は125人が働いていたが、今は25人に減った。いなくなったのはヨルダン川西岸から毎日イスラエル側に通っていたパレスチナ人労働者だ。その数は約20万人に上っていた。
昨年10月7日にイスラム組織ハマスが奇襲攻撃を仕掛けて以来、イスラエルはヨルダン川西岸およびパレスチナ自治区ガザとの境界を治安上の理由から封鎖し、パレスチナ人労働者の入境を禁止した。それ以前はガザからも1万8500人の労働者が毎日仕事に来ていた。
こうした労働者の中には、鉄工や床工事、左官などイスラエルのほとんどの建設現場で労力の大きい初期工事を担っている8万人前後のパレスチナ人も含まれている。
パレスチナ人にとっては、入境禁止で自治区内よりも数倍高い賃金を得る道が突然絶たれた。何年もの間、ヨルダン川西岸からイスラエルの建設現場へ働きに来ていたモハンマド・ダボウスさんは「仕事は順調で全て問題なかった。われわれはこの仕事に頼ってきたのでほかに収入源はない」とロイターに語った。こうした人びとは、支払い小切手などが全て不渡りになるなど非常に困っているという。
入境禁止を受け、ガザとヨルダン川西岸の経済情勢は一段と悪化した。国際労働機関(ILO)は今週出した報告書で、両地域の失業率が50%を超え、失業者は50万人に上っているとした。
<経済下押し>
一方、イスラエル側も入境禁止で建設活動に急ブレーキがかかった。昨年終盤に住宅建設は95%も減少し、経済全体が19%落ち込む原因になった。
入境禁止は農業やサービスにも打撃を与えたが、同国経済の6%を占める建設セクターほどの影響は出ていない。
建設セクターはその後、アジア諸国からの労働者呼び込みなどで多少持ち直したが、まだ建設活動の4割は停止している。イスラエル中央銀行の調査責任者アディ・ブレンダー氏は、代わりの外国人労働者がどれだけ補充されるかで幅が出てくるものの、この状況は経済成長率を2─3%押し下げると試算した。建設活動停止は住宅不足に拍車をかけ、インフレにつながることにもなる。
冒頭に紹介した倉庫建設を請け負った企業は当初昨年12月に稼働できると見込んでいたが、現在は夏までに完成できればと考えている。
同社幹部のアフマド・シャルハ氏は「もはや利益は期待していない。事業を完了させて、戦争開始以来被った損失をこれ以上拡大させないことを目指している」と打ち明けた。
建設業界からは赤字が続いていることのほか、客から工期遅れに伴う違約金を請求されるのを懸念する声が聞かれる。人手についても、今雇える労働者に支払う賃金は最大で従来の倍に跳ね上がっている。
イスラエル建設事業者協会を率いるラウル・スルゴ氏は「毎日、毎週のように建設会社が破綻するか、独自の判断で事業を打ち切っている」と述べた。
こうした中でイスラエルでは、インドやスリランカ、ウズベキスタンといった国から6万5000人の労働者受け入れる枠を設け、迅速な採用活動が進められている。
パレスチナ人労働者の受け入れ再開も議論され始めた。何人かのイスラエルの治安当局者は、ヨルダン川西岸で人々の収入手段がなくなれば、社会不安が増大しかねないと心配する。
首相府によると、ネタニヤフ内閣が今後、パレスチナ人労働者の入境を認める「限定的で試験的取り組み」を協議する方針。建設・住宅省の高官は「パレスチナ人労働者は戻ってくる。問題はそれがいつ、どのぐらいの数になるかだ。全てのパレスチナ人労働者が帰ってきても、もっと多くの人手は必要だ」と語った。
治安当局者の1人は、パレスチナ人労働者の入境を再開する場合は、以前より手間がかかるとしても、国境検問所での保安措置と検査を強化するとの見通しを示した。
ただ、イスラエル国内には自治体首長などからの反対論も根強い。北部の小都市アフラのアビ・エルカバッツ市長は「パレスチナ人労働者の受け入れは多くの住民を危険にさらすことを意味し、私はその備えができていない。イスラエル国民の命を危うくさせることなく、別のさまざまな国から労働者を受け入れるための多くの解決策は存在する」と訴えた。
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