焦点:中国、台湾の媽祖信仰に触手 総統選への影響画策か
12月21日、来年1月の台湾総統選を前に、中国共産党が対中融和路線の政党支持へと世論を操作するため、台湾農村部の宗教団体との交流を活発化させていることが、台湾政府の文書と安全保障当局者らの証言で明らかになった。写真は台中にある媽祖廟で11月撮影(2023年 ロイター/James Pomfret)
James Pomfret Yimou Lee
[大甲(台湾) 21日 ロイター] - 来年1月の台湾総統選を前に、中国共産党が対中融和路線の政党支持へと世論を操作するため、台湾農村部の宗教団体との交流を活発化させていることが、台湾政府の文書と安全保障当局者らの証言で明らかになった。
中国政府や共産党が運営する宗教団体、国営メディアのウェブサイトを調査したところ、中国のゼロコロナ政策が終了したのを受け、今年は台湾から中国への宗教的な旅行が増加している。そのうちの数十件は、海の女神「媽祖」(まそ)崇拝に関連するものだ。媽祖は航海・漁業の守護神として台湾で最も人気のある神で、1000万人の信者がいる。
ロイターは台湾の安全保障文書5本を調査し、台湾の安全保障当局者5人、媽祖廟の指導者5人、アナリスト4人にインタビューした。
その結果、中国共産党幹部が中国への旅行を補助するなどして宗教界の重鎮らと関係を築こうとしている実態について、これまで報道されてこなかった詳細が明らかになった。
これに対し、台湾は媽祖信仰を含む中国本土・台湾間の宗教活動の監視を強化している。対中関係を担う台湾の大陸委員会の説明と、ロイターが閲覧した文書3本から明らかになった。
台湾政府関係者5人によれば、中国は1月13日の台湾総統選および立法委員(国会議員)選を前に、対中関係強化を唱える政党への支持を高めるため、宗教関連の活動を行っている。
ロイターが今年10月に確認した諜報報告書によると、中国は国家宗教事務局などを介して台湾の媽祖信仰への影響力を確立してきた。台湾のキリスト教徒や仏教徒、道教徒にも関与する同事務局は、習近平国家主席が中国の対外的な影響力を拡大するための「魔法の武器」と呼ぶ共産党「統一戦線工作部」の管轄下にある。
文書によると、少なくとも5つの台湾媽祖廟協会が6つの中国側団体と接触しており、その6団体は全て同事務局によって運営されている。
ある文書は、中国と最も密接な関係があるこの信仰を、中国は世論操作活動の「軸」に据えていると指摘した。媽祖の起源は台湾海峡を挟んだ中国の福建省にあり、中国本土にも何百万人もの信者がいる。
中国は公式には無神論の立場だが、ロイターが調査した2020年と2016年の統一戦線の報告書によれば、統一戦線は長い間、民間宗教を利用して台湾の信者と関係を築いてきた。信者の多くは巡礼のために定期的に中国を訪れている。
中国国営メディアは9月、媽祖関連の交流プログラムは台湾との「平和的統一」において「重要な役割」を果たしていると伝えた。
台湾の大陸委員会はロイターに対し、中国との真の宗教交流は歓迎するが、統一戦線の「活動空間を縮小」するため、台湾の寺院への関与と監視を強化すると文書で回答した。
<戦争か平和か>
中国は、台湾の与党・民主進歩党(民進党)と同党の総統候補である頼清徳副総統を危険な分離主義者とみなし、民進党への投票は中国との戦争に投票することに等しい、と訴えている。頼氏は一貫して世論調査で対立候補をリードしている。
対中融和姿勢を採る最大野党、国民党の高官らも同様の表現を使ってきた。
中国は対照的に「親中政党を支持することは平和を意味する」というシグナルを台湾の有権者に送っていると関係者の一人は語った。
国民党は、中国とメッセージが類似していることについて問われ、民進党が中国との対話不足ゆえに台湾を戦争の淵に導いていることは「紛れもない事実」だと答えた。
台湾の安全保障当局者らは、中国が活動を行っている多くの寺院の場所にも注目している。中国が大都市以外の「中小規模の神社仏閣との関係」を築こうとしていることを、台湾は認識していると関係者の1人は述べた。
こうした地方のネットワークは「地元にうわさを広める効果的なシステム」であり、世論形成の一助になるという。
台湾の民間信仰を研究している学者、ウェン・ツォンハン氏によれば、中国が農村部の寺院に影響力を持とうとしているのは、都市部の宗教センターと比べ、信者の日常生活において大きな役割を果たしているからだ。
「社会組織や地域社会に働きかけ、選挙結果に影響を与えることができる」とウェン氏は語った。
<参拝旅行を後援>
政府の報告書によると、中国は2018年から20年にかけて、台湾との間で70回以上の大規模な相互寺院参拝を企画し、少なくとも2万0400人が参加。そのうち少なくとも9回は中国政府が一部資金を提供した。
今年、中国は台湾の政治家数百人による中国旅行を後援した。台湾政府関係者らは、これを選挙法や治安維持法違反の疑いで調査している。
台湾の治安当局者2人は、こうした旅行は中国が諜報活動を行い、世論操作活動のための同調者を募る「チャンス」だとの考えを示した。
180以上の寺院を会員とする媽祖廟ネットワーク「台湾媽祖廟親睦会」のチャン・ミンクン代表は「戦争に向かわないためにも(中国との)交流を深める必要がある」と話し、選挙によって政権交代が実現することを望んでいると語った。