ニュース速報

ワールド

焦点:トランプ新政権で影響力発揮へ、娘婿クシュナー氏の横顔

2016年11月19日(土)07時25分

11月15日、細身で清潔感のあるジャレッド・クシュナー氏は、2009年にドナルド・トランプ氏の娘イバンカさんと結婚。トランプ氏が勝利した先週の大統領選では勝利に貢献し、新政権にも影響力の強い顧問として残ると見られている。写真は6月7日、ニューヨーク州で演説するトランプ氏の演説に耳を傾けるクシュナー氏(左)と妻のイバンカさん(2016年 ロイター/Mike Segar)

Will Dunham

[ワシントン 15日 ロイター] - 共和党の大統領候補指名を確実なものとした予備選に勝利した後、ドナルド・トランプ氏はおもむろに、少年の面影を残した35歳の男性を称賛した。この人物は最終的に、ホワイトハウスへの道を切り開くうえで必要不可欠の人物となった。

「ジャレッドは正直に言って、不動産業界で大きな成功を収めている。しかし実際には、不動産よりも政治の方が好きなのではないかと私は思っている」。トランプ氏は、5月に行われたインディアナ州の共和党予備選で勝利を収めた後で、彼の右に立っていた娘婿のジャレッド・クシュナー氏について、聴衆にこう語った。

「政治においても彼は非常に優れている」

細身で清潔感のあるクシュナー氏は、ニュージャージー州の不動産業者の息子で、2009年にトランプ氏の娘イバンカさんと結婚した。トランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン氏を破った先週の大統領選では勝利に貢献し、新政権にも影響力の強い顧問として残ると見られている。

クシュナー氏は、昨年6月に始まったトランプ氏の選挙運動において、早くから頭角を現した。選挙運動のほぼあらゆる側面に関与し、重要な人事、戦略、演説、資金集めなどの分野でアドバイスを提供した。

選挙戦の後半には、彼はトランプ氏が経営するテレビネットワークの準備に着手した。この件に詳しい筋の話によれば、義父が敗北した場合に備えたものだったという。

クシュナー氏は彼の実家が経営する不動産開発企業クシュナー・カンパニーズの指揮を執り、25歳のときに買収した週刊紙「ニューヨーク・オブザーバー」の発行人でもある。

縁故採用禁止法の定めにより、大統領が家族を政権内で働かせることはできないが、クシュナー氏は重要な内部関係者で、信頼できる側近としての立場を維持する見込みだ。

大統領首席補佐官に指名されたラインス・プリーバス氏は、14日、NBCの番組「トゥデイ」に対し、クシュナー氏は「明らかに」意志決定に深く関わることになるだろうと述べた。クシュナー氏は、トランプ氏の政権移行チームに名を連ねている。

<父の跡を継いで>

クシュナー氏はハーバード大学を卒業し、ニューヨーク大学でも法学の学位と経営学修士(MBA)を取得。トランプ氏同様、クシュナー氏も不動産業界の大物である父親の跡を継いだ。

彼の父チャールズ・クシュナー氏は、不動産デベロッパー、慈善活動家、そして民主党への大口献金者でもあるが、センセーショナルな刑事事件により、その評判は地に墜ちてしまった。2004年、彼は脱税、証人買収、選挙資金の違法献金など計18件の訴因で2年間の実刑判決を受けた。

この裁判において、彼は、検察官に協力的だった義弟の評判を落とすために、売春婦を雇ってモーテルの1室で義弟と関係を持たせ、その様子を密かに撮影したビデオを義弟の妻、つまりチャールズ・クシュナー自身の妹に送りつけた。奇妙な偶然だが、チャールズ・クシュナーを訴追した検察官は、現在のニュージャージー州知事で、やはりトランプ氏の顧問として活動しているクリス・クリスティー氏だった。

息子のジャレッド・クシュナー氏は正統派ユダヤ教徒で、妻のイバンカさんも結婚前にユダヤ教に改宗している。クシュナー家ではユダヤ教の戒律に従った食事をとり、安息日を守り、ニューヨークのアッパーイーストサイドにある上流階級向けのシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝堂)に通っている。

<反ユダヤ主義をめぐる論争>

右派ウェブサイト「ブライトバート・ニュース」を主宰していたスティーブン・バノン氏は8月、トランプ陣営の責任者に就任。当時の関係者によれば、トランプ氏とその子女、それにクシュナー氏がバノン氏のアドバイスと分析を信頼していることが明らかになったことを受けての動きだという。

「ブライトバート・ニュース」は、白人至上主義者、反ユダヤ主義者、その他多文化主義に反発する人々による緩やかなネット上での連携である「オルタナ右翼」運動と深い関係がある。

来年1月20日に大統領に就任するトランプ氏は、13日、バノン氏を首席戦略官・上級顧問に任命した。

クシュナー氏が経営する新聞で記者として働くユダヤ人のダナ・シュワルツ氏は7月、トランプ氏がツイッターへの投稿で、100ドル紙幣を背景にした「ダビデの星」の画像を使ってクリントン氏の政治腐敗を攻撃したことを批判。その後、大量の反ユダヤ主義的なツイートを浴びせられたシュワルツ氏は、クシュナー氏に公開書簡を書いた。

シュワルツ氏の文面は、こうだ。「あなたはどうしてこんなことを認めているのか。そう、あなたがこれを認めている。(トランプ氏の)背後に、娘婿であるあなたが黙って微笑みながら立つことによって、彼の支持者のなかでも最も憎悪に溢れた人々に、あなたは暗黙の承認を与えている」

クシュナー氏はこれに応え、オブザーバー紙に「私が見るところ、『レイシスト』『反ユダヤ主義者』といった非難があまりにも無頓着にやり取りされており、そうした言葉が意味を失ってしまいかねない」と書いた。

さらに、自分の祖父母はナチスによるホロコーストを免れた生存者だが、他の親戚はそうではない、と述べた。「現実の危険な不寛容と、政治的な得点稼ぎのために応酬されているレッテル貼りの違いは分かっている」とクシュナー氏は書いた。

クシュナー氏は父親が有罪判決を受けた後、20代半ばにして不動産業界の主役となった。2006年、彼が26歳のときには、単一のビル購入としては米国史上で最高額となる取引、すなわちマンハッタンの5番街にある41階建ての高層ビルを41億ドルで購入する案件を手配した。

クシュナー氏はその後、業界誌「リアル・ディール」に対し、「ニューヨークでは機敏に動かなければ、他人の後塵を拝してしまう」と語っている。

(翻訳:エァクレーレン)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは157円前半でもみ合い、材料難で膠

ビジネス

日航、システム障害が復旧 顧客情報の流出なし

ビジネス

焦点:日産との統合、ホンダから漏れる本音 幾重のハ

ワールド

台湾総統府、中国との有事想定した初の机上演習
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3個分の軍艦島での「荒くれた心身を癒す」スナックに遊郭も
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 5
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 6
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 7
    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …
  • 8
    ウクライナ特殊作戦による「ロシア軍幹部の暗殺」に…
  • 9
    中国経済に絶望するのはまだ早い
  • 10
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 5
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 6
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 7
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 8
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 9
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中