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アングル:新興国の債券発行活況、年初来で550億ドル超 米新政権など警戒

2025年01月14日(火)11時26分

 1月13日、新興市場の国と企業は2025年に入ってから550億ドルを超える債券を発行しており、これは近年では最高のペースとなっている。2018年撮影(2025年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

Libby George Karin Strohecker

[ロンドン 13日 ロイター] - 新興市場の国と企業は2025年に入ってから550億ドルを超える債券を発行しており、これは近年では最高のペースとなっている。米国で第2次トランプ政権が発足して混乱が起きる可能性を見据え、借り手が資金を確保しようと躍起になっている事情がある。

サウジアラビアが120億ドルの債券を先週発行したほか、メキシコは85億ドル、チリも30億ドル超をそれぞれ起債した。スロベニアとハンガリー、インドネシア、エストニア、さらに多くの企業も起債している。

モルガン・スタンレーの集計によると今年に入ってからの債券の発行総額は555億ドルと過去10年超で最も多く、昨年同期の446億ドルを大きく上回った。 

JPモルガンの中東欧・中東・アフリカ地域(CEEMEA)債券資本市場責任者、ステファン・ワイラー氏は「(起債する)借り手は、発行の波の先頭に立ちたがっている」と言及。その上でトランプ次期大統領の就任式がボラティリティーを引き起こす火種となり得る今月20日や、政策金利の計画変更を示唆する可能性がある今月下旬の次回連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、さらに約300億ドルの債券を「大量かつ大規模に」発行しようとしていると指摘した。

中国に追加関税を課すというトランプ氏の公約は特に中国にとって打撃になるものの、チリやブラジルといったコモディティーを輸出している新興国全体の経済も脅かす。予測不能な政策を好むトランプ氏は、市場を動揺させる傾向もある。

一方、米国で再燃しつつあるインフレ懸念と雇用の力強い伸びも、資金調達を必要とする国などを焦らせている。

バンガードの新興市場債券の共同責任者、ニック・アイジンガー氏は「インフレ再燃のシナリオが市場を脅かしている」とし、「全体のリスクフリーの利回りは上昇せざるを得ない。そのため、新規発行を希望する国の出発点はより割高になる」と言及した。

<ブルドーザーが動き続ける>

BNPパリバは、昨年の新興市場の債券発行は既に「ブルドーザー」のように力強かったと指摘する。BNPのCEEMEAシンジケートの責任者、マット・ドハーティ氏は債券発行が好調さを維持していると話す。

資金調達が必要な国などは、米国の選挙によるボラティリティーの「スリップストリーム(後流)」を避けるため24年に余裕を持って資金を調達していた。

米連邦準備理事会(FRB)の利下げを最大5回と予想していた市場が、1回にとどまる可能性を織り込むように変化したことも、債券発行を前倒しする理由だ。

ドハーティ氏は、昨年発行された新興国債券のうち70%が上半期だったことを引き合いに出して「今年上半期にCEEMEA市場で最大2000億ドルの発行があっても驚かない」とし、「待つ理由はない」と語った。

BNPのデータによると、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の最中だった20年に発行された短期債が償還期限を迎えるため、新興国市場では今年5000億ドル近い償還が予定されている。このことも資金需要に拍車をかけている。

バンク・オブ・アメリカのデビッド・ハウナー氏はコロナ禍で発行された債券の償還により、湾岸諸国以外での25年の純発行額は前年を下回ることになるとの見方を示した。ハウナー氏は25年の新興国市場の企業と法人、他の事業体による発行総額は約5670億ドルになると見込んでいる。

ただ、FRBが再び利上げに転じるかもしれないとの懸念さえ出ている中で、発行体はできるだけ早期に起債するとの見通しを示した。バンク・オブ・アメリカはFRBの利上げを予想していないとしながらも、ハウナー氏はそうなれば「債券市場にとっては非常に残酷なことになる」と述べた。

これまでのところ市場は発行された債券を容易に吸収しており、どの発行体も目標額を調達している。

しかし、シティグループは顧客向けのメモでリスクは高く、市場は急速に変化する可能性があるとして「新興国市場のクレジットを現在下支えしている全ての要因は短命に終わるだろう」と予想している。

ロイター
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