アングル:米大手銀が相次ぎ脱退、排出量ゼロ目指す国際取り組みに失速懸念
1月6日、脱炭素を目指す国際的な銀行連合「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から米大手金融機関がこの数週間に相次いで脱退した。 写真はパリに掲げられた金融機関などによる気候変動対策を訴えるサイン。2023年6月撮影(2025年 ロイター/Gonzalo Fuentes)
Simon Jessop Iain Withers Saeed Azhar
[ロンドン/ニューヨーク 6日 ロイター] - 脱炭素を目指す国際的な銀行連合「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から米大手金融機関がこの数週間に相次いで脱退した。化石燃料からの温室効果ガス排出問題に取り組む米金融業界の決意が薄れているのではないかと懸念する気候変動対策推進派から、非難の声が上がっている。
米金融大手ゴールドマン・サックスが昨年12月6日にNZBAからの脱退を発表すると、すぐにウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレーが追随。米金融大手6社のうちNZBAに残っているのはJPモルガン・チェースだけになった。
一連の脱退劇は、共和党の政治家がNZBAへの加盟、とりわけそれが化石燃料企業への融資削減につながる場合には反トラスト法(独占禁止法)に抵触する恐れがあると警告した後で起きており、ほとんどの「不幸な結婚」に終止符が打たれた形になった。
脱退した銀行は今後、気候変動に配慮した政策への取り組みを縮小する可能性があると、非政府組織(NGO)リクレイム・ファイナンスの気候金融専門家のパトリック・マッカリー氏は見ている。「注目すべき点は既存の目標や方針が引き下げられたり、弱められたりするかどうかだ」と指摘。銀行の中には野心的な排出削減目標を掲げていたところもあるが、変更を公にする可能性は低いという。
NZBAは、特に規模が大きくて金融システムにとって重要な銀行を引き留めるため、さまざまなルールの調整を目指したものの、最終的にこうした努力は実を結ばなかった。
活動家団体シェアアクションの銀行プログラム責任者、ジャンヌ・マーティン氏は、米大手銀の相次ぐ脱退は市場にとって「気候変動問題は米銀に優先度がさらに下がっている」というシグナルになっていると指摘。「こうした銀行が世界最大の化石燃料業界向け融資提供者であることを考えると、非常に懸念される状況だ」と危惧を示した。
NZBAに残留している唯一の米金融大手JPモルガンの広報担当者は、この種のグループへの加盟を定期的に見直しているとしつつ、脱退の予定があるかどうかについてはコメントを避けた。NZBAに残っている他の米銀はアマルガメーテッド銀行、アレティ銀行、クライメート・ファースト銀行などで、いずれも規模が小さい。
明確な理由として挙げられることはなかったが、脱退の背景には米国で過去2年間に広まった環境・社会・ガバナンス(ESG)投資に対する反発があると見られる。共和党政治家、特に多くの州の司法長官はNZBAへの加盟は反トラスト法に違反する可能性があると批判していた。
こうした圧力は昨年11月の選挙で共和党が大勝し、トランプ前大統領が返り咲きを決めてから一段と強まり、運用最大手ブラックロックなどの投資家が気候変動対策を巡り訴訟を起こされる事態となった。
脱退を表明した銀行は直接的な理由にはほとんど触れず、低炭素経済への移行を支援する取り組みや行動の透明性を確保する姿勢を示している。
金融シンクタンク、アントロポセン・フィクスト・インカム・インスティテュート(AFII)による12月のローンおよび債券発行におけるシンジケーション手数料収入の分析によると、脱退した米銀はいずれもグリーンエネルギーよりも化石燃料から多くの収益を得ている。
AFIIのウルフ・エルランドソン最高経営責任者(CEO)は「今の段階では『何も変わっていない』と言い張れる銀行もあるだろう。化石燃料からより多くの利益を得る経営体制に変化がないからだ」と述べた。
昨年発表された研究によると、米国の大手6行はいずれも化石燃料企業への融資額で世界のトップ20に入っていた。
一方、非営利団体ケレスのミンディ・ラバーCEOは、一連の脱退があっても、米最大手銀はいずれもNZBAを通じて「気候問題に強力に関与」しており、投資家は今後もこうした銀行の取り組みに関する情報を求めていくと説明。「ケレスとしては、銀行の目標設定やその達成、移行計画の遂行を支援し続ける。銀行は排出実質ゼロという世界的な目標を支援し、移行に伴う経済的機会を促進する上で重要な役割を担っている」と訴えた。
米銀で脱退が相次いだとはいえ、NZBAには引き続き44カ国から142行が加盟しており、加盟行の総資産額は64兆ドルに上る。このうちドルベースで最大のシェアを持つのが欧州の銀行で、HSBC、バークレイズ、BNPパリバなど大手を含む80行が加盟している。
NZBAの加盟基準を巡るこれまでの議論を踏まえると、米銀の脱退によってより野心的な取り組みを目指す勢力にとってチャンスとなると指摘するのは、前出のマッカリー氏。SNSに「欧州の銀行はNZBAの指針を強化したいと主張していたが、米銀が反対していた。今こそ欧州の銀行が前面に出て、米銀の妨害を口実に取り組みを遅らせていたわけではないことを示す時だ」と投稿した。
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