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焦点:大規模緩和の爪痕、債券先物に支障のリスク 日銀は投機を警戒

2024年10月21日(月)18時11分

 10月21日、 日銀が過去に推し進めてきた大規模な金融緩和政策の副作用に直面している。日銀本店前で1月撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Takahiko Wada

[東京 21日 ロイター] - 日銀が過去に推し進めてきた大規模な金融緩和政策の副作用に直面している。2022年から23年にかけて、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の下で一部の国債銘柄を大量に買い入れた影響で、先物取引の受け渡しに用いられる「チーペスト(最割安)銘柄」が流動性不足に陥っている。債券市場の価格形成や先物を通じたヘッジ機能にも影響しかねないと市場では懸念する声が広がる。

日銀は、国債補完供給や減額措置の要件緩和の継続といった対応策で当面乗り切る構え。併せて、品不足を突いて投機的な動きが出てこないか、市場の動向を注視している。

10年債で市中流通量が極端に少ないのは366回債(償還日は32年3月20日)だ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券によれば、10日時点で日銀が市中発行額の95.2%を保有し、市中流通量は4106億円。同銘柄は12月にチーペスト銘柄になる。

国債先物の売り手は、残存7年から11年の国債(受渡適格銘柄)を受け渡すことができるが、通常、コストが低い7年国債がチーペスト銘柄として用いられる。

市場ではチーペスト銘柄が極端に品薄になることで、先物の価格形成や銘柄間の価格のバランスに歪みが出るのではないかとの懸念が出ている。三菱UFJモルガンの鶴田啓介シニア債券ストラテジストは「先物固有の需給要因が絡んで、売り建てづらさから先物価格は下がりにくいのではないか」と指摘する。

<日銀、2本柱で対応>

日銀は16日、この問題への対応策として、当面はチーペスト銘柄にかかる国債補完供給の要件緩和を継続すると発表した。22年、10年金利を低位で維持するために国債を大量に買い入れたことに伴う流動性低下への対処として、国債補完供給の継続利用日数の上限引き上げに加え、日銀から借りた国債の返済を免除される「減額措置」の要件緩和を打ち出してきた。この2本柱を今後も続けていく。

日銀が追加策を示さなかった理由として、2つの事柄が日銀内で聞かれる。

1つ目は、チーペスト銘柄の品不足は以前、もっと厳しかった局面があったが、その時も国債補完供給の要件緩和と減額措置で乗り切ってきたというものだ。

22年12月、日銀が10年金利の許容変動幅の上限を0.25%から0.50%に拡大した際、YCC撤廃を巡る思惑から売り圧力が非常に強まった。日銀は10年金利を0.5%で抑制するため、23年1月に月間23兆6902億円に上る国債を買い入れた。その結果、当時のチーペスト銘柄358回債の日銀の保有比率が100%を超える異常事態となった。この時は、8000億円程度の大幅な減額措置が行われたとみられ、358回債の品不足感は徐々に後退していった。

第2の理由は財務省が毎月1回行っている流動性供給入札だ。財務省が15日に行った残存5年超15.5年以下の流動性供給入札では、10年債366回債が2000億円追加発行された。流動性供給入札は市場参加者のニーズに合わせ、毎回の上限金額の中で必要な銘柄を追加発行するもので、今後も流動性に不安があれば11月や12月にも366回債を追加発行することができる。

日銀の16日の公表文には、国債補完供給の利用先から減額措置の申し出があった場合、日銀が「国債市場の流動性改善に資すると判断とした場合には、原則として承諾する」と明記した。日銀では減額措置について、レピュテーションリスクを恐れて使いづらいのではないかとの見方が出ており、公表文に明記することで必要なら減額措置を申し出るよう促す狙いが込められている。

<国債の売りオペには慎重>

12月半ばにチーペスト銘柄になる366回債は、22年に日銀が指し値オペで大量に買い入れた銘柄だ。日銀は8月から国債買い入れ額の減額計画をスタートし、流動性の面では今後、緩やかに改善していく。しかし、YCCの下で大量に国債を買い入れた爪痕は2年後の現在にまで残る。現状は367回債以降369回債まで市中流通量が1兆円を下回っており、当面はこの問題がくすぶり続けることになる。

市場では、流動性の回復を目的に日銀に国債の売りオペを実施してほしいとの声も聞かれる。しかし、日銀では保有国債の売りオペの実施が市場に誤ったメッセージを与えかねないとして、慎重な声が根強い。日銀が利上げ局面にある中で、売りオペの趣旨をはっきり示さないと金利の急上昇を招きかねないからだ。

日銀はチーペスト銘柄の少なさを利用して投機的な動きが出てこないか、先物の限月交代前後で不測の動きが出ないかなど、市場の動向を注視している。

(和田崇彦 編集:橋本浩)

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