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焦点:早期解散観測、日銀利上げに新たなハードル 市場回復にも時間

2024年08月27日(火)16時16分

 8月27日、追加利上げをうかがう日銀の行く手に新たな不透明要素が浮かび上がりつつある。写真は3月、日銀本店前で撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama

[東京 27日 ロイター] - 追加利上げをうかがう日銀の行く手に新たな不透明要素が浮かび上がりつつある。永田町では9月の自民党総裁選を受けた早期の衆院解散・総選挙観測がくすぶり始め、10月の決定会合がその時期と重なる可能性があるほか、8月初の混乱から少し落ち着きを見せてきた市場も一進一退の状況で、本格的な回復にはなお遠い。11月の米大統領選挙もあり、市場では年内の利上げのハードルは高まっているとの指摘が出ている。

<円安一服なら容認論後退>

「先に行くほど不透明感が増す」。追加利上げを巡り、政府関係者の1人はこう語る。

岸田文雄首相(党総裁)の任期満了に伴う総裁選は9月12日告示、投開票は27日に決まった。次の日銀金融政策決定会合は9月19、20日に行われる予定で、現政権下では最後の会合となる。

政府・日銀は持続的、安定的な物価安定2%目標の実現に向け、これまでも足並みをそろえてきた。

7月の利上げに先立ち、首相は「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と表明。利上げ決定後には日銀の判断に理解を示したが、市場では「円安が一服すれば利上げ容認論は後退する可能性が高い」(みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介・主席エコノミスト)との声がくすぶる。

「年内の利上げが完全に消えたというのは時期尚早だが、今後の利上げのハードルは7月会合以上に高まっている」と酒井氏は言う。

<復調に数カ月の声>

市場が再びショックに見舞われ「市場の動揺が個人消費に影響することが一番、心配」(首相周辺)との声は、政府内になお残る。

年初からの「頭痛の種」(同)だった急ピッチな円安は反転の兆しをみせているが、逆に、企業の想定を割り込む水準での円高が続けば、業績悪化の懸念も強まりかねない。日銀短観によると、事業計画の前提となる企業の24年度想定為替レートは全規模全産業で1ドル=144.77円と足元の水準とほぼ同じで、今後の為替がどう推移するかは企業業績を左右する。

日銀の植田和男総裁は23日の衆院財務金融委員会で「内外の金融・資本市場は引き続き不安定な状況にある。当面はその動向を極めて高い緊張感を持ち、注視していく」と述べた。

史上最大の下げ幅を記録した日経平均株価は、足元では戻り歩調で推移しているが、完全に復調するには「数カ月はかかる」(別の政府関係者)とされる。市場の変動が収まらなければ「利上げを見合わせすることを強調するしかない」と、ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミストも指摘する。

<続く政治イベント>

来月の党総裁選以降も政治イベントは相次ぐ。有力な総裁候補の1人とされる石破茂元幹事長は「誰が首相になっても国民に信を問う時期はそう遠くない」と話す。

ロイターが確認した想定日程では、新総裁選出後は党役員人事や閣僚人事に着手し、10月2日に臨時国会を召集。7日に新首相の所信表明演説を行う段取りを描く。

10月9日から3日間、衆参代表質問を実施したうえで15日に解散した場合、「10月29日公示、11月10日投開票」とする衆院選日程が現実味を帯びる。別日程も取りざたされ、情勢はきわめて流動的だが、新政権が解散に踏み切れば10月30、31日に予定される金融政策決定会合は選挙戦と重なる。

11月には米大統領戦も予定され、政府内には「翌年1月の就任式までは市場が不安定化しやすい」(関係者)との懸念がある。再び正常化に向け歩みを進めるにも「動きづらい時間帯が続く」(大手行幹部)との声が出ている。

植田日銀総裁は23日の閉会中審査で「経済・物価見通しがおおむね実現していく姿になっていけば、金融緩和度合いを調整していくという基本的な姿勢に変わりはない」と明言した。8月中旬に行ったロイターのエコノミスト調査では回答者37人のうち、22人が年末までの追加利上げを見込んでいる。

ロイター
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