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アングル:米国の肥満治療薬ブーム、食品メーカーには福音も

2023年10月24日(火)19時28分

 デンマークの製薬大手ノボノルディスクの「ウゴービ」(写真)など、食欲を抑えて肥満症を治療する薬の需要拡大を受け、食品の消費が減るとの懸念から食品メーカーの株価が最近下落した。ただ肥満治療薬は一部の食品メーカーには新たな商機をもたらしており、市場の反応は行き過ぎだとの声もある。オスロで9月撮影(2023年 ロイター/Victoria Klesty)

Richa Naidu David Randall

[ロンドン/ニューヨーク 23日 ロイター] - デンマークの製薬大手ノボノルディスクの「ウゴービ」など、食欲を抑えて肥満症を治療する薬の需要拡大を受け、食品の消費が減るとの懸念から食品メーカーの株価が最近下落した。ただ肥満治療薬は一部の食品メーカーには新たな商機をもたらしており、市場の反応は行き過ぎだとの声もある。

米小売り大手ウォルマートは今月、肥満治療薬の投与が始まってから食品の消費がわずかに減ったとの見解を発表。これを機に、加工食品世界最大手ネスレなどの株価が売りを浴びた。

しかしアビバのポートフォリオマネジャー、リチャード・サルダンハ氏は「かなり過剰反応のようだ。長期的な消費慣行にまで広げて受け止められている」と語る。

ウゴービは既に米国で社会現象的な成功を収めており、現在ノルウェー、デンマーク、ドイツを含む一部の欧州市場で販売が始まろうとしている。このため消費・小売りセクターでは食品の売り上げが打撃を被るかもしれないとの懸念が広がった。

ノルウェー最大の年金基金KLPの投資責任者、キラン・アジズ氏は「確かにノボの大成功は食品と飲料双方の企業に大きな変化を引き起こすかもしれない。肥満に関わる他の健康関連株にも変化は及ぶだろう」と言う。ただ同氏は、利ざやが薄く収益性への打撃がメーカーより大きそうなスーパーマーケットへの影響にもっと注目すべきだとも述べた。

ネスレのマーク・シュナイダー最高経営責任者(CEO)は先週、同社がウゴービのような肥満症治療薬を補助する製品の開発に着手したと明かした。「除脂肪筋肉量の減少」や「急速な体重のリバウンド」を抑えるサプリメントなどが含まれる可能性があるという。

こうした取り組みに加え、ノボの生産がウゴービの需要に追い付いていないこともあり、「奇跡の薬」とされる肥満治療薬は長期的には食品業界に悪影響を及ぼさないと、一部の投資家は考えている。

EYで米州の健康関連産業を統括するアルダ・ウラル氏は、新種の肥満治療薬に対する市場の反応は、メタバース黎明期の興奮ぶりを思い出させると言う。その後、人々の行動様式の変化スピードは遅いとの認識が広がるにつれ、メタバースは投資家の関心から外れていった。

ウラル氏は「問題は、社会経済面で地位が低い層の方が肥満とリスク要因が多いのに、こうした薬はコストが高く、それが制約要因になっていることだ」と指摘。「薬が手の届きやすい価格になり、そうした層に良い影響が及び始めるといった変化は非常に緩慢なスピードでしか起こらないだろう」と述べた。

とはいえ、ネスレに投資するミラボード・グループのシニア投資専門家、ジョン・プラサード氏は「最もリスクが高いのは『ジャンクフード』専門の企業や、代替的な商品をほとんど提供できないレストランチェーンなどだ」と警戒する。

一方、フランク・バリュー・ファンドのポートフォリオマネジャー、ブライアン・フランク氏は、ウゴービ関連で売られた株を買い増すつもりだ。「市場が値引きしてくれるなら喜んで買わせてもらう」と言う。

またリーガル&ジェネラル・インベストメント・マネジメント・アメリカの調査アナリスト、My Nguyen氏は、肥満治療薬の需要は米国主導の動きのようだと指摘。「他の地域を見ると、新興諸国では中間層が豊かになり移動範囲も広がっているため、スナックやインスタント食品へのシフトが後押しされるかもしれない」との見方を示した。

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