インターネットは、国単位で分割される「スプリンターネット」になりつつある
アメリカネット、EUネット、中国ネット、ロシアネット......に
スプリンターネットをもたらしたのは既存の国家であり、その手段となるのがネット検閲やブロッキングだ。例えば中国は金盾、俗にグレートファイアウォールと呼ばれるシステムを構築し、中国国外との接続を厳しくコントロールしているが、これは政治的に情報の出入りを検閲し、国家の管理下に置きたいからだ。
最近話題になったのはロシアで、国内のネットワークをインターネットから切り離す実験をすると発表した。ちなみにロシアにしてもネット人口は1億人程度と、日本に匹敵する多さである。ロシアの試みがうまく行けば、他の国も続くかもしれない。
ようするに、インターネットはアメリカネット、EUネット、中国ネット、ロシアネットといった具合に、国単位で分割されつつあるのである。スプリンターネット化によって、ようやく国家がネットをコントロールする可能性が見えてきたのだ。
かつてネット検閲と言えば専制国家の専売特許だったが、スプリンターネットを前提にすれば、ネットを国内法や規制で飼い慣らすことが出来ることがだんだん分かってきて、日本を含む民主的な国家でも、知ってか知らずかスプリンターネットを志向するケースが増えているように思う。これは危険な兆候である。
自国のネットへのアクセスが、政治的、経済的な取引材料に
そして、自国の「イントラネット」へのアクセスが、政治的、経済的な取引材料として使われるようになってきている。その際の武器になるのが、往々にしてプラットフォーム規制やプライバシー保護、サイバーセキュリティといった美辞麗句なのは皮肉なことと言えよう。EUと日本の個人データ移転を巡るGDPRの十分性認定にもそういう面があったし、そのうち中国も、金盾を入れていない国はサイバーセキュリティ対策に問題があるから、そうした国の企業の中国ネットへのアクセスを禁ずる、などと言い出す可能性もある。スプリンターネットはかつて「インターネットのバルカン化」と呼ばれることもあったが、むしろこちらのほうが適切な表現かもしれない。
スプリンターネット化の理由を、インターネット・ガバナンスの中心となる存在の不在に求める見解もある。先日パリで開催された国連のInternet Governance Forum 2018では、フランスのマクロン大統領が演説し、インターネットには正しい規制が必要だ、IGFこそが規制の主体になれ、なれないならもっと政府が乗り出すぞと発破をかけた。 彼の演説は賛否分かれたが、問題意識は分からなくもない。
我々は情報の自由を求めてまたフロンティアを開拓するしかない
インターネットのスプリンターネット化を我々はどう評価すべきだろうか。原則として、自分が見たいものが見られず、あるいは見ようとしたものと違うものを見せられる、というのは、知る権利の重大な侵害であり、よほどの理由が無い限り容認できないと私は考える。インターネットの強みだった相互接続性が損なわれるのも問題だ。
一方で私自身は、インターネットが一般大衆のものになった今、細かく管理され、人畜無害で漂白されたものになっていくのは残念だが仕方がないとも思っている。
いずれにせよ今後インターネットは、可愛い猫の写真ばかりの安心・安全で無意味なものになっていくのだろう。だとすれば、我々は情報の自由を求めてまたフロンティアを開拓するしかない。私がこのところTorやI2P、Namecoin、IPFSといった、テイクダウンやネット検閲に対抗できる(かもしれない)技術の開発に取り組んでいるのは、そういった問題意識による。
・ヤフー個人から転載
この筆者のコラム
陰謀論信じる反マスク派がソーシャル・ディスタンス主張、別の陰謀論が流された? 2021.05.21
本気で匿名性を保つために留意すべきこと 2019.03.27
ウェブで社会を動かす? その強さと脆さ 2019.03.18
インターネットは、国単位で分割される「スプリンターネット」になりつつある 2019.03.15
我々の弱点を前提として、民主主義を「改善」することはできないだろうか 2019.03.11
Facebookとファクトチェックという難問 2019.03.05