コラム

流暢な言葉で「真実」を語る陰謀論者...米共和党の新星「ミニ・トランプ」ラマスワミ候補の実力は?

2023年09月06日(水)18時21分
米共和党のビベック・ラマスワミ候補

8月23日の討論会を席巻したラマスワミ BRIAN SNYDER-REUTERS

<来年の大統領選に向けた米共和党の候補者レースで脚光を浴びているインド系の大富豪、ビベック・ラマスワミ候補の正体>

8月23日、来年の米大統領選に共和党からの出馬を目指す面々が顔をそろえた第1回テレビ討論会で脚光を浴びたのは、ハーバード大学で学び、起業家として莫大な富を築いた38歳の男、ビベック・ラマスワミだった(トランプ前大統領は討論会に不参加)。しばらく前まで無名の存在だったが、今は共和党の大統領候補としてトランプとフロリダ州のデサンティス知事に続く支持率3位に躍り出ている。

ラマスワミは、常に笑みを振りまき、慇懃な訳知り顔を崩さない一方で、陰謀論を語り、保守的な思想と孤立主義的な外交政策を信奉している。ライバル政治家とメディア、そして真実を軽蔑してみせる姿勢は、トランプそっくりだ。もっとも、こうした態度は、トランプのまねというより、ソーシャルメディアの匿名性の下で対人関係の礼節が失われた時代に育ったことの産物なのかもしれない。

いずれにせよ、共和党支持者たちはラマスワミに好感を抱き始めたようだ。聡明で洗練されていて、流暢な言葉で「真実」を語る反エリート主義者として好ましい存在に見えているのだろう。

ラマスワミは1985年、インド出身の両親の間に米オハイオ州で生まれた。ハーバード大学とエール大学法学大学院を卒業したのち、バイオテクノロジー企業を創業して大成功を収めた(会社は売却済み)。

「ディープステート」批判を明確に意識した主張

掲げている政策は、過激化した今日の共和党では標準的なものと言っていい。外交では孤立主義的な姿勢を取り、ウクライナへのこれ以上の支援を否定している。いわく、自分が唯一宣戦布告する相手は、アメリカの「行政国家」。この主張は、共和党支持層に浸透している「ディープステート(世界を牛耳る闇の政府)」批判を明確に意識したものだ。ラマスワミは、連邦公務員の75%を解雇し、FBIや教育省、原子力規制委員会(NRC)などを廃止すると述べている。

陰謀論も目立つ。21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件の原因は連邦政府の「嘘」であり、事件の責任は武装した連邦職員たちにあると主張。「グローバルな気候変動問題」はペテンだと言ってはばからない。トランプと同様、アメリカの左派文化への批判が主張の中心を占めている。

いま共和党支持者の間で人気が急上昇している理由は、主張の中核を成す「10の真実」なるものを見るとよく分かる。「神は現実に存在する」「性別は2種類しかない」「差別をなくそうとする活動は差別だ」といった言葉は、社会が変わるなかで自分たちが少数派に転落することへの不安を抱く保守派の心に響く。その主張は、保守派が思い描く公民権法以前のアメリカ──少なくとも、白人にとってのアメリカ──への郷愁をかき立てるものなのだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story