コラム

藤井聡太王位・棋聖の「今までの棋士にない加速」評、将棋とビジネスに共通するマルチタスク化

2021年07月19日(月)16時15分

「AIは『次の一手』を考えるのは得意だが、3年後や5年後を考えるのは苦手。とはいえ今後能力が飛躍的に拡大したら、数年後に起こりうる事象をも読み込めるようになる可能性は高いだろう」と、藤野氏は指摘する。

投資にトレンドがあるように、将棋にもトレンドがある。佐藤九段によると、最近は「バランスの良さ」が重要視されているそうだ。

将棋には「攻め駒」と「守り駒」が存在する。従来の将棋は両者の役割を明確に分け、各駒がより効率的に機能するような戦い方が主流だった。しかし、AIが指す将棋はそうした線引きが曖昧で、1つひとつの駒が「攻め」にもなれば「守り」にもなるという。

「攻めと守りが明確でない戦い方をする場合、1つ間違えると中途半端で役に立たない駒になってしまうので、AIは常に全体を細かく見て判断をする。AIの登場がこれまでの将棋の指し方を変えた」

攻め駒と守り駒の分業化がより強化されるのではなく、マルチプレーヤー化したことが驚きだと話す佐藤九段。これに対し、「ビジネスでも同じことが言える」と藤野氏は言う。

「今までの組織は得意分野によって部署が分かれていたが、近代経営ではマルチタスクが求められている。最近の将棋を見ていて、管理部が営業の仕事をしているようだと思った。つまり、管理系の仕事を内在させながら、根本的には全員が攻め駒として働く組織のほうが、より強烈に数字を上げることができる」

AIの登場が攻め駒と守り駒の役割分担を変化させたように、ビジネスのマルチタスク化もIT技術によって促進されたものというわけだ。

科学技術の進歩から、思わぬところに話が発展した今回の対談。将棋の駒を人間に当てはめると、もはや1つのスキルだけでは通用しない時代になったといえる。働き方が多様化した今、ビジネスマンに求められるスキルも今後ますます変容していくだろう。

構成・酒井理恵

●YouTubeチャンネル「お金のまなびば!」

※編集部:タイトルの藤井聡太氏の漢字に誤りがあり、修正しました。失礼いたしました(7月20日10:00)

プロフィール

藤野英人

レオス・キャピタルワークス 代表取締役会長兼社長、CIO(最高投資責任者)
1966年富山県生まれ。国内・外資大手資産運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。投資啓発活動にも注力しており、東京理科大学MOT上席特任教授、早稲田大学政治経済学部非常勤講師、日本取引所グループ(JPX)アカデミーフェロー、一般社団法人投資信託協会理事を務める。主な著書に『投資家みたいに生きろ』(ダイヤモンド社)、『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(星海社新書)、『さらば、GG資本主義――投資家が日本の未来を信じている理由』(光文社新書)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責

ビジネス

訂正-メルセデス、中国パートナーとの提携に投資継続

ビジネス

ホンダ、カナダにEV生産拠点 電池や部材工場含め総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story