コラム

日本終末ウォッチ2、就職先は中国が上?

2010年11月16日(火)18時05分

東京で行われた就職フェアの合間に休憩する求職者たち

氷河期 東京で行われた就職フェアの合間に休憩する求職者たち
Yuriko Nakao-Reuters

 世界第2位の経済大国の座を中国に奪われた日本の変化については、ぞっとする話が聞こえてくる。健康な若い男たちはスキニージーンズで街を闊歩したり、ママに贈るプレゼント選びにいそしんでいるらしい。同僚と飲んだくれて家庭をかえりみないなどといった、いわゆる「男らしい」行動は社会から消えたようだ。

 こうした日本の現状を中国と比較するため、CNNは先日、「双子の比較研究」という古典的な検証法を使った映像を配信した。

 クボ・トシコとフクコは日本で生まれ育った一卵性双生児。フクコは中国に移住し、給料のいい安定した職に就いている。トシコは東京で、同じく給料がよくて安定した職に就いている。一見すると大した違いはなさそうだが、実はそうでもない。


 大学で美術史を専攻したトシコは、古典美術に関わる仕事を希望していた。だが彼女は、安定した給料と待遇を得るためにこの夢を諦めたと語る。彼女は現在、望んでいた分野とは違う仕事に就き、1日14時間働いている。日本の典型的な労働時間だ。トシコは今の仕事を嫌ってはいないが、心から満足しているわけでもない。


 日本では、美術史専攻だと濡れ手に粟の仕事を見つけるのは難しいようだ。このこと一つとっても、日本経済がもう立ち直れないぐらいダメになっているのは間違いない(!)

 では、次はフクコに会ってみよう。


 フクコは高校生のときにイギリスへ留学し、英語をマスターした。英語が堪能なら、多国籍企業への就職の可能性が広がる。フクコは大学時代は建築学を専攻。さらにトシコと同じく美術にも関心があり、現代美術で修士号を取得した。

 フクコも最初は日本で働こうとした。彼女は、サブプライム危機がアメリカを襲いリーマンショックへと発展していく渦中、東京の会社に就職。だが日本にも不況の波が押し寄せてくるなか、会社は人員削減に踏み切り、フクコもその対象になった。

 フクコの目に、成熟しきった日本経済は若い彼女が希望を持てる場には映らなかった。「みんな人生を楽観的できなくなってきていると思う」と彼女は言う。「誰もが同じように沈んでいる。何もかも不安で、長時間の労働を迫られる今の環境にがんじがらめになっているようだ。私もいろんなことがあって幸せを感じられなかった。だから、そんな状況から抜け出す必要があった」

 フクコは職のあてもないまま北京へと飛び立った。だが北京到着からわずか3日後、彼女は面接の機会を得て、インテリアデザイン会社への就職を決めた。


■双子の比較から分かること

 この双子は2人とも美術を専攻し、大学を出て就職した。彼女たちの具体的な職業や収入はCNNのインタビューでも語られていない。だが話の内容から察するに、少なくとも就職先がファストフード店でないことは確かだろう。1人はリストラされたが、中国で新たなチャンスを見つけた。もう1人は自分のキャリアに心から満足していないが、それは不景気でなくともよくあることだ。

 CNNは、現在の中国には10年前と比べて3倍の日本人が住んでいると紹介する。だがその数は今も日本の総人口の0.1%でしかないことも認めている(残念な反日デモがなければ、もっと多かったかもしれない)。

 さて、この双子の検証で私たちは何を学んだか。1つは、日本では美術史の学位があれば仕事が見つかるが、その仕事は美術史とは関係のないものである可能性が高いこと。もう1つは、英語に堪能で日本の大学の学位を持っていれば、北京でインテリアデザイナーの仕事を見つけることができるということ。ふ〜ん、なるほどねえ。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年11月12日(金)14時32分更新]

(注)これは10月27日に掲載した日本終末ウォッチ(Japocalypse Watch)、「日本男子衰退論は怪しい」の続編です。

Reprinted with permission from "FP Passport", 16/11/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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