コラム

日本男子衰退論は怪しい

2010年10月27日(水)17時30分

pa_161010.jpg

ゆとり系? 企業戦士はいなくなったと言われるが
Yuriko Nakao-Reuters

 先日、ワシントン・ポスト紙が日本の「草食系男子」についての記事を掲載した。一日14時間も働き、帰り道に酒をあおる生活よりも、友達とつるんでショッピングを楽しむほうがいいと考える若者が増えているというニュースは、アメリカのメディアで最近増え続けている「日本衰退物語」の最新事例だ。


専門家の話によると、20〜34歳の日本人男性が妙な反乱を起こしている。彼らは80年代のバブル期のような週70時間の長時間労働や、見栄を張るため消費する風潮に背を向けている。大卒者の就職氷河期が続いているが、単なる就職難以上に大きな問題が潜んでいると指摘する専門家が増えている。最近の若い男の子は自分のやりたいことがわからない世代なのだ。

 日本はかつて、一つの会社に人生を捧げる企業戦士に支えられて経済成長を遂げた。彼らは暗い色のスーツを着て、退社後も同僚と酒を飲み交わし、家族とほとんど顔を合わせないことも珍しくなかった。

 だが最近、仕事に生きがいを見出す従来の働き方は崩壊したという認識が政財界に広がっている。経済は活力を失い、国家への高らかな誇りは国の先行きへの不安に取って変わられた。その結果、若者世代は「会社のために自分を犠牲にする意欲」を失ったと、『近代日本』の近著があるテンプル大学のジェフ・キングストン教授は言う。「ある意味で日本の解体が始まっている今、若者は従来のパラダイムが通用しないと気付いているが、今後の展開について確信があるわけでもない」


 アトランティック・マンスリー誌のジェームズ・ファローズやフィナンシャル・タイムズ紙のギデオン・ラッチマンも指摘しているように、こうした日本衰退論にはいくつもの誤りがある。第一に、日本は今も極めて裕福な国だ。ファローズは10月中旬にニューヨーク・タイムズ紙に掲載された日本への「追悼」記事に対して、次のように反論した。


中国に抜かれたとはいえ、日本のGDP(国内総生産)はわずか数カ月前までアメリカに次ぐ世界第2位だった。国民一人当たりの国民総生産や個人資産は、今も中国の10倍近い。


■スキニージーンズ指数によると...

 超細身のスキニージーンズをはいた覇気のない若者が増えている点について、ファローズは「その現象が日本経済の崩壊の結果なのかわからない」としている。確かに、ニューヨーク・タイムズの別の記事によれば、経済成長著しい中国の若者の間でも細身のパンツが流行しているらしい。

 第2に、日本の若い男性が「家族と過ごしたり趣味を楽しむ時間をもてるバランスの取れた生活を望んでいる」という事実は、日本がそれなりに順調であることの指標だと思う。冒頭のワシントン・ポストの記事と合わせて、アメリカの20代の若者が大人になれない風潮をリポートしたニューヨーク・タイムズ紙の記事を読むと興味深い。アメリカの若者も豊かな社会に育っており、全く働かなかったり、アルバイトで暮らすライフスタイルを選ぶことができる。

 地球上に暮らす人の大半、そして70〜80年代に日本を支えた人々の大半は、大阪の街でラテアート(カプチーノの泡の表面に模様を描くアート)を楽しむいまどきの若者を見て、恵まれていると思うだろう。

 国がどの程度まで豊かになると、周囲をイラつかせる細身パンツのサブカルチャーが生まれるのか。そこには一定の相関関係がありそうだ。「スキニージーンズ指数」と名付けて研究してみるといい。

――ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年10月26日(火)11時16分更新]

Reprinted with permission from "FP Passport", 27/10/2010. © 2010 by The Washington Post Company. 

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ、軍事宇宙支出計画で偵察衛星など検討 中ロの

ビジネス

再送-〔焦点〕再び円安警戒モード、高市氏「ほくほく

ビジネス

再送-〔焦点〕再び円安警戒モード、高市氏「ほくほく

ビジネス

フジHD、旧村上系が大規模買付取り下げ 外部資本導
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 8
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 9
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 10
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story