コラム

オリンピック開催を日本は生かせるか(フランスは生かしています)

2019年03月20日(水)18時22分

そんな中、私はとても心配していることがあります。東京五輪が終わっても何も変わらないことです。すでに、テニスの聖地と堂々と呼ばれるお台場の有明テニスの森公園はせっかく五輪のために世界基準のハードコートを50面作られるものの、五輪が終わってすぐにオムニコート(人工芝)という時代遅れのサーフェスに戻すのだそうです。港区議会で赤坂大輔議員が異議を唱えても、「コア・メンバーである高齢者ユーザーに昔のままのオムニが使いやすくて好評なのです」ときっぱりと言われます。

日本の官僚の壁は相変わらず高いのです。前例がない、変えたくない、チャレンジをしないということですね。オリンピックに最も合う言葉はチャレンジなのに......。リスクをとらずに、昔ながらのビジネス・モデルをひっぱる一部の古い日本は沈没しますよ。

一方、フランスに必要なのは国民の新たなアイデンティティを生み出すことです。フランスは国民を宗教(カトリック)で統一する時代が終わり、EUになって国家という概念も薄くなりました 。言語(フランス語)と歴史を学校で教えるとはいえ、国とは何か、スポーツにその答えがあると思います 。国とは、同じ共同体に属していることであり、市民としての責任を感じることです。簡単に言えば、スポーツのチームスピリットですね。運動をしながらそれに気づいて欲しいです。

運動文化は国の将来もかえうるもの

日本とフランスの若い世代はこれからスポーツ(運動)どう向き合うのでしょうか。スポーツ文化というものは、まさにムーブメントになれるものです。いわゆる、新しい流れを作ってくれます。英語やアピールが苦手なフランスと日本にとってなおさら、侮れない世界共通のコミュニケーション・ツールです。

スポーツを通じて海外で友達を作るという意味ではありません。スポーツは日本企業にとって、あなどれないソフトパワーなのです。たとえば、市場を切り開いてくれる最高のPRツールとして。香川真司選手がマンチェスターユナイテッドに所属していたとき、11社もの日本企業がそのクラブと契約し、サッカーを通じて 彼らはMade in Japanを世界中にアピールできました。スポーツは異文化をつなげるきっかけにもなるのです。

それゆえに、スポーツが大好きな日本の若い世代は、スポーツは将来日本と世界をつなぐきっかけとして考えればいいのです。日仏の若者がオリンピックで運動をするモチベーションを高め、スポーツで心体を磨き、自国の運動文化を変えることによって、自分の国の将来も変えられるのかもしれません。それが真のスポーツの力というものです。

※3月26日号(3月19日発売)は「5Gの世界」特集。情報量1000倍、速度は100倍――。新移動通信システム5Gがもたらす「第4次産業革命」の衝撃。経済・暮らし・医療・交通はこう変わる! ネット利用が快適になるどころではない5Gの潜在力と、それにより激変する世界の未来像を、山田敏弘氏(国際ジャーナリスト、MIT元安全保障フェロー)が描き出す。他に、米中5G戦争の行く末、ファーウェイ追放で得をする企業、産業界の課題・現状など。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米地裁、トランプ氏のLAへの派兵中止命じる 大統領

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示

ワールド

EUの凍結ロ資産活用案「最も国際法に準拠」=ECB

ワールド

欧州、ウクライナ和平巡る協議継続 15日にベルリン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story