コラム

「ブラジルは治安が悪い」って誰が言った?

2014年06月22日(日)14時46分

 日本代表の第2戦のギリシャ戦をナタルで見て、ものすごくストレスがたまった。スタジアムを出て、わりとすぐにタクシーを見つけたので、つかまえて乗る。行き先は宿ではなく、近くのピザ店にお願いする。

 前日にも来た店である。なぜまた来たかというと、宿から徒歩圏にある店のなかでいちばん評判がいいからだ(というより、宿から徒歩圏にある唯一まともなレストランだからというべきか)。

 翌日、ナタルからサンパウロまで飛行機で向かう。フライトは午後3時50分発。だが前日にスタジアムへ向かったときに利用したバスの運行状況を思い起こすと、いろいろ心配なので、午前11時にタクシーを宿に呼んでもらうようお願いする。

 タクシーはちゃんと午前11時に来てくれる。1時間ほどでナタル空港に着く。バタバタと作った感のある新空港で4時間近くコーヒーなどを飲み、ワールドカップの中継を見ながら暇をつぶす。あわてるよりは逆にいい。ここまでナタルでは、危ないことが何ひとつなかった。

 飛行機はサンパウロに着く。サンパウロは大変な都会だ。この街のホテルは春にあわてて確保したのだが、とてもいい場所にあることがわかった。

『地球の歩き方』にも書いてあるが、オスカーフレイレ通りという「サンパウロで最も流行に敏感なストリート」まで、ホテルから5分で行ける。東京にたとえて、僕はオスカーフレイレ通りを「表参道」と呼ぶようになった。

 表参道の異名のとおり、オスカーフレイレ通りは歩いていて気持ちが高まるストリートだ。世界的なブランドの店のほか、サンダルの「ハワイアナス」や服の「オスクレン」などブラジルを代表するブランドの旗艦店がここに設けられている。ハワイアナスでビーチサンダルを、オスクレンでTシャツを買う。買い物をすると、海外旅行がいっそう有意義に思えるのは、なぜなのだろう。

 夕食の時間になる。使い慣れない言葉なので緊張してしまうけれど、サンパウロの「レストランシーン」は時間が遅い。開店が午後8時くらい。前日金曜日の9時ごろに街に出てみたら、めぼしい店の前にはかなり長い行列ができていた。だから今夜は、めざすレストランに開店時間に行ってみることにする。

 超都心にある「Spot」というそのレストランの開店時間は、なんと午後8時。その時間を狙って行ったのに、ウェイティングリストに名前を連ねることになる。

 テーブルが空くまでバーで飲む(こんなことをしたのは、人生で初めてかもしれない)。フルーティーなミディアムボディのフランスワインをいただいているうちに、「テーブルが開いたのでご案内します」と、女性スタッフが言いに来てくれる。

 日本にいたら口にするはずのないような、おしゃれな食事をいただく。値段はそれなりだが、べらぼうに高いわけではない。なによりご機嫌なアメリカンロックがBGMにかかっていて、気持ちのいい店だ。

 ブラジルに来て9日目。当初の緊張がすっかり体と頭から抜けたことに気づく。思い起こせば、この国の初日にレシフェの空港に着いた直後、タクシーに乗った僕は、運転手の言い値が「25・・」と聞こえたので、「それは25ブラジルレアルか、25米ドルか」などという質問をけんか越しの口調で言っていた。その間、脚を外に出してドアが閉まらないようにしていた。

 明らかに過剰反応だった。その後、タクシーの運転手はみんなといっていいほど親切で、きちんとした仕事をしてくれていることがわかってきた。

プロフィール

森田浩之

ジャーナリスト、編集者。Newsweek日本版副編集長などを経て、フリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。立教大学兼任講師(メディア・スタディーズ)。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にサイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』、コリン・ジョイス『LONDON CALLING』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

〔ロイターネクスト〕トランプ関税で目先景気後退入り

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに追加出資 最大5.9

ビジネス

大企業・製造業DIは4期ぶり悪化、非製造業は91年

ワールド

ブラジル前大統領、ルペン氏公職追放を「左派的司法活
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story