コラム

若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙船地球号は大きくて、我々は楽観視してきた」

2023年06月06日(火)17時00分

──先日(5月24日)の「軌道上での活動成果報告会」では、宇宙空間での水再生技術が初めて最終段階まで成功したと伺いました。

私たちは月探査に向けて、水を再生する技術を開発しています。人間の汗や尿を宇宙で飲み水まで再生するもので、これは月探査を持続的に進めていくときに、なくてはならないものなんです。これまでも「きぼう日本実験棟」で技術実証してきたんですけれど、なかなかうまくいかない時代が続きました。今回初めて、全工程を運用することができました。

このことは、当然月探査にとっても非常に重要なんですけども、と同時に、世界各国に災害地域や、綺麗な水が飲めない地域もあるわけですから、そういったところでの水再生技術にも繋がります。実際に安全な水を世界に供給するという観点から、SDGsの6番「安全な水とトイレ」に寄与できる具体例になると思います。

──宇宙での水の再生実験と聞いて、私も将来の月探査とか火星探査のためとばかり思っていたのですが、若田さんの説明で「宇宙開発って地球開発にも繋がってるんだな」と感動しました。

おっしゃる通り、いろんな点で宇宙開発っていうのは、地球の持続的発展に不可欠なものだと思います。

宇宙から地球を俯瞰することによって、地球の環境を守るための新しい知見も得られます。人工衛星に積まれた天気予報や気候変動モニターのための各種センサーなどを使うのですが、宇宙から"人工の目(計測装置による見守り)"で地球を見ることで、地球環境を保全することにも寄与できてるのかなと思います。

17番の「パートナーシップで目標達成」についても、ISSというのは、世界の国々が協力して人類の活動域を広げていくための仕事をしている場所です。持続可能な開発の象徴的な存在だと思います。

若田宇宙飛行士のISSでのミッションダイジェスト (C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)


公人として、一個人としてのアクション

──次の質問ですが、若田さんには宇宙飛行士というある意味「公人」としての立場と、もちろん一個人としての立場があります。それぞれで、SDGsに対してどのようにアクションしたい、あるいはすべきだと考えていますか。

公人というかJAXAの職員として、宇宙のアセット(資産)を使って──これは人工衛星であったり、これまでに申し上げたような宇宙ステーションを通したSDGsの貢献だったりといった様々な分野がありますが──、宇宙を活かして地球上の生活を豊かにするために、その地球環境を守るために努めていくっていうことが、まず公人としてのアクションだと思っています。

JAXAが持っている技術を活かして、この部分に貢献していくことが我々に求められることですので、私も仕事として行っていきたいです。

──個人としてはいかがですか。

1人ができる力っていうのはそんなに大きくはないですが、それをみんながやることによって大きな成果に繋がっていくと思っています。

ですから、排出物を少なくする、プラスチック製品をなるべく少なくするとか。日常の生活でちょっとした努力が大きな環境保護に繋がっていくと思うので、大きなことはできないんですけども、小さな努力を一個人として続けていきたいです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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