コラム

若田光一宇宙飛行士に聞く宇宙視点のSDGs「宇宙船地球号は大きくて、我々は楽観視してきた」

2023年06月06日(火)17時00分
若田光一宇宙飛行士

宇宙空間での水再生技術は、「安全な水とトイレを世界中に」が目標のSDGsの6番に寄与できる具体例になる、と語る若田宇宙飛行士 筆者撮影

<宇宙開発事業は、地球のSDGsにどのように関わっているのか。その具体的事例と、宇宙から地球を見たことで変化したという「地球と人との共存共栄」に対する考えを、5回目の宇宙飛行から帰還したばかりの若田宇宙飛行士に聞いた。聞き手は、作家で科学ジャーナリストの茜灯里>

2015年9月に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、30年までの15年間に国際社会が行うべきアクションの指標です。

折返しの年となった23年現在、企業やアカデミアでは、今やSDGsを意識せずには組織運営や研究活動は成り立たなくなりました。また、個人においても、社会や地球環境に対して「自分は何ができるか、どうアクションを起こすべきか」について考える際に、SDGsの17の目標は判断基準として認知が高まりました。

SDGsは、地球規模の大きな視点から、国際社会における水や貧困、ジェンダーなど様々な格差を解消しながら、環境保護をしつつ開発するものです。

では、もっと大きな視点──「宇宙視点」を取り入れた場合、SDGsにはどのように貢献できるでしょうか。

宇宙に計504日18時間35分滞在(日本人最長)し、5回目の宇宙飛行から帰還したばかりの若田光一宇宙飛行士に話を聞きました。

※本記事は前後編インタビューの前編です。後編はこちら

◇ ◇ ◇

──若田さんが携わっている宇宙開発事業は、地球のSDGsにどのように関わっているのでしょうか。

開発目標の番号で言うと、まず、4番の「質の高い教育」とか、6番の「安全な水とトイレ」の水のほうが思い浮かびます。それから、9番の「産業技術革新の基盤をつくる」とか13番の「気候変動対策」、17番の「パートナーシップで目標達成」ですね。

──具体的な事例があれば教えてください。

「質の高い教育」を実現するために、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう日本実験棟」を通して、人材育成や教育を行っています。

今回、私がISSに滞在している時に担当したものでは、「アジアントライゼロG」があります。アジアの若い世代から地球軌道上で行う簡易実験のアイディアを募って、選ばれた実験を宇宙飛行士が「きぼう」で行うプログラムです。

8カ国・地域の480人が参加してくれて、そのうちの6件を1月に私が軌道上で実験をしたんです。高校生や大学生が提案してきたものを、実際に宇宙を使って、無重力空間で水の渦や毛細管現象などを観察して、物理現象がどうなるかっていうのを調べました。

──自分のアイディアを宇宙で実現してもらえる可能性があるのは、将来、宇宙に関わる仕事をしたいという夢を持つ若い世代の励みになりますね。

それから「きぼうロボットプログラミングチャレンジ」というのもあります。きぼう日本実験棟の中に、浮遊するロボット、ドローンがあるので、毎回課題に沿ってプログラミングをしてもらうんです。ISS内でエアリーク(空気漏れ)が発生したというシナリオで、ここからここまで飛んでいって、レーザー照射で塞ぐ、とか。

ロボットのプログラミングを通して人材育成に貢献するもので、これも昨年10月に実際に軌道上で決勝を行ったんですが、世界各国12カ国で合計1431人も参加してくれました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ブラジル大統領選、ボルソナロ氏が長男出馬を支持 病

ワールド

ウクライナ大統領、和平巡り米特使らと協議 「新たな

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story