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超音波照射でマウスが休眠状態に 「冷凍睡眠」より手軽に医療、宇宙旅行に応用可能か
ヒトは水だけで3週間から1カ月程度は生き延びられるとされていますが、救出されたとき男性の体温は約31℃だったため、男性は冬眠状態になったために2カ月も生存できたのではないかと考えられています。
日本でも06年10月に六甲山中で遭難した35歳の男性が、24日間、飲まず食わずの状態で発見されたことがありました。保護された時の体温は22℃と極度の低体温で、ほとんどの臓器が機能停止状態でしたが、男性は後遺症を残さずに回復したそうです。
もし、ヒトの全身を人為的に低体温にして休眠状態にするコールドスリープが確立されれば、火星探査の際に片道約250日間かかる宇宙飛行中の水や酸素、食料を節約できるでしょう。さらに長期間でも安全に行えるようになれば、不治の病の治療法が見つかる未来まで冬眠し続けることも現実的になるかもしれません。
人工冬眠研究の歩み
人工冬眠への大きな一歩となる研究は、20年6月に筑波大と米ハーバード大によって科学総合誌『Nature』に発表されました。
筑波大の櫻井武教授らによる研究チームは、マウスの間脳視床下部の神経細胞(Q神経)を人為的に刺激して興奮させました。すると、マウスの体温は10度以上下がって休眠状態になり、脈拍や代謝、呼吸も大きく低下。48時間以上経過後に回復した際には、後遺症は見られませんでした。同大は、休眠に関係している神経回路のマップ化にも成功しました。
ハーバード大のマイケル・グリーンベルグ教授らによる研究チームは、マウスの視床下部内を226領域に分けて少量のウイルスを注入しました。その結果、ウイルスによってavMLPA(視索前野の前腹側)領域の神経細胞が刺激を受けて活性化されると、休眠状態になることが確認されました。該当領域は、以前から睡眠や体温調節などを司る領域として知られていました。
今回、セントルイス・ワシントン大のチームは、上記の筑波大とハーバード大による人工冬眠に関する研究と、超音波を脳に照射すると触覚を増強させたりうつ病などが軽減されたりするという報告から、マウスやラットの視床下部に超音波を当ててみることを考えつきました。
実験の結果、超音波によってマウスの視床下部視索前野を刺激すると、体温は3.5℃低下し、心拍数は半分になり、呼吸回数も大幅に低下することが分かりました。さらに動きが鈍くなったり、餌を食べる量も激減したりしたことから、冬眠に近い状態に変化したことが示唆されました。
一度の超音波刺激で人工冬眠状態は1時間ほど続き、繰り返し照射すると24時間にわたってマウスを不活性状態にできました。照射を止めると、マウスは目に見える悪影響はなく90分で通常の状態に戻りました。
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