コラム

バレンタインに知っておきたい、チョコレートの甘くない歴史とトリビア

2023年02月07日(火)11時30分

47年、イギリスのチョコレート製造会社、フライ&サンズ社の創業者一族であるジョセフ・フライは、ついに固形チョコレートを発明します。当時の「飲む」チョコレートは、ココアパウダーをお湯に溶かして砂糖を加えたものでしたが、彼はお湯の代わりにココアバターを加えてみました。すると、常温では固体で、口の中に入れると溶ける性質を持つ「食べる」チョコレートができました。

75年にはスイスのショコラティエのダニエル・ペーターが、ミルクチョコレートを生み出します。脂肪分の多いチョコレートは、ミルクをそのまま添加すると分離してボソボソした舌触りになります。ペーターの住むベベイ村にはネスレ社の創業者アンリ・ネスレがおり、育児用の粉乳を発明していました。2人はチョコレート用のミルクを共同開発し、味を改良しました。

さらに79年には、スイスのロドルフ・リンツがコンチェを発明します。チョコレートの原料をすり潰して粉末状にしたものを撹拌しながら練っていくと、内部の空気が徐々に抜けて口当たりの良い、滑らかなものができます。このときに使用する機械がコンチェです。

バレンタインの習慣は70年代に定着

一方、日本のチョコレートの歴史は、江戸時代の長崎に始まります。史料に初めて登場するのは1797年で、遊女がオランダ人から貰った贈り物の記録に「しょくらあと六つ」という記載があります。

明治時代になると、不平等条約の改正や諸国の調査のために欧米を回った岩倉使節団は、フランスのチョコレート工場を視察して、製法やカカオの産地について『特命全権大使米欧回覧実記』に記載します。東京の西洋菓子店は徐々にチョコレートを取り扱うようになり、大正時代、製菓メーカーの明治や森永がチョコレートを製造するようになると、広く大衆に知られるようになりました。

日本とチョコレートというと、「バレンタインに女性から男性にチョコレートを渡す」ことが真っ先に思い浮かびます。日本式のバレンタインの発祥は、神戸モロゾフ製菓(現モロゾフ)が1936年に「あなたのバレンタイン(=愛しい方)にチョコレートを贈りましょう」と新聞広告を出したこと、メリーチョコレートカムパニーが58年に伊勢丹新宿本店で「バレンタインセール」でチョコレート販売キャンペーンを行ったことなど、諸説あります。もっとも、最初はなかなか定着せず、チョコレートを贈る習慣が一般的になるのは70年代です。

以来、50年を経て、近年はチョコレートをはじめとするカカオ製品の健康への効果が、科学的に研究されるようになりました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナに大規模攻撃、西部テルノピリで25人死亡

ワールド

ウクライナに大規模攻撃、西部テルノピリで25人死亡

ワールド

エプスタイン文書、米司法省が30日以内に公開へ

ワールド

ロシア、米国との接触継続 ウクライナ巡る新たな進展
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story