コラム

翼竜にカラフルな羽毛の痕跡 恐竜との類似点、相違点から進化を考える

2022年05月03日(火)11時30分

これまでに、恐竜では、1995年に中国・遼寧省で初めての「羽毛恐竜」が見つかりました。現生の鳥類のように、羽軸と羽枝を持つ羽毛の痕跡がある化石です。2018年には河北省の地層から、表面に「メラノソーム」という微細構造が密集した虹色に輝く羽毛の痕跡がある恐竜の化石が発見され「ツァイホン(彩虹)」と名付けられました。

翼竜の化石でも「毛のようなふわふわしたもの」が見つかった例はあります。ただ、枝分かれしていない糸状の構造だったため、研究者らは「ピクノファイバー」と名付けて、羽毛とは別の物として扱ってきました。

けれど、今回の研究チームは、ブラジル北東部で発掘された約1億1500万年前の翼竜「トゥパンダクティルス・インペラトール(Tupandactylus imperator)」の頭部の化石から、羽軸と羽枝を備える物体の痕跡を同定しました。

「恐竜が鳥の祖先である」と言い切れた理由

トゥパンダクティルス属は白亜紀の前期から存在し、巨大なトサカで知られている翼竜です。

新たに発見された化石には、頭頂部に生えるピクノファイバーだけでなく、鳥の羽毛のような中央を通る羽軸から分かれた羽枝を持つ構造が観察されました。

さらにこの翼竜の羽毛は、恐竜のツァイホンのようにカラフルだった可能性があります。今回の化石を電子顕微鏡で調べたところ、皮膚や毛の表面にメラノソームが見つかりました。具体的な色は不明ですが、場所ごとに大きさや形状が違うことから、多様な色が発現していたと推測できます。

共同研究者である英ブリストル大学の古生物学者マイケル・ベントン氏は、「頭頂部の目立つ部分に多様な色を備えていたことから、(現在の鳥類のように)仲間とのコミュニケーションや異性の注意を引くために使われていたと考えられます」と語ります。

研究チームによると、恐竜と翼竜の両方が羽毛を持つ理由は、両者の進化系統樹が分岐する前の共通祖先から受け継がれたためとも、別々に独自に進化したものが似たからとも考えられるといいます。たとえば現生でも、イルカ(哺乳類)とサメ(魚類)は類縁関係の遠い生物ですが似通った外見や器官を持ちます。生活環境や食物が似ていると、全く違う生物でも形態が似る場合があります。これを収斂(しゅうれん)進化と呼びます。

では、なぜ、翼竜の鳥に似た外見に惑わされずに「恐竜が鳥の祖先である」と言い切れたのでしょうか。日本人の発生学者、田村宏治教授(東北大)の研究グループも大きな貢献をしています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story