コラム

NASA、中国、UAE... 2021年が「火星探査ブーム」なワケ

2021年10月19日(火)11時35分

akane211019_mars2.jpg

初走行に成功した探査車「パーシビアランス」から撮影された火星地表(2021年3月4日) NASA/JPL-Caltech

さらに9月1日、パーシビアランスは35億年前に湖だったと考えられるクレーターの岩石から直接、火星表面のサンプル採取に成功しました。

これまでも、地球で見つかった隕石に含まれている希ガスの組成が、1970年代のバイキング計画で得られた火星の大気組成と似ていることから、火星由来だとされる隕石はありました。けれど、隕石は地球大気圏に突入する時に表面が数千℃以上になるため、生命の痕跡は分かりませんでした。

パーシビアランスが採取した「生の」サンプルは、別の探査機が回収して早ければ2031年に地球に持ち帰る予定です。サンプルを採取した岩石には長期間にわたって地下水と接していた跡が見つかっており、このサンプルを分析すれば、人類史上初めて「地球外生命の痕跡」が見つかるのではないかと期待されています。

UAE初の地球外ミッション

いっぽう、中国の火星探査車「祝融」は5月15日、火星着陸に成功しました。中国は2011年から火星探査にチャレンジしていますが、今回が初成功です。これで中国は、旧ソビエト連邦、アメリカに次いで、火星着陸に成功した3番目の国となりました。「祝融」は、地表から写真を撮影し、地表成分、磁場、気象などに関するデータを観測して、8月17日に予定のミッションを終了し、引き続き調査を続けることになりました。

もっとも、9月中旬から10月末にかけては、地球と火星間の通信を妨げる荷電粒子が太陽コロナから放出されるため、通信に障害が起きる可能性があります。探査機側から地球に送られるデータが破損する恐れもありますが、それ以上に、地球から探査機へのコマンドが損なわれると誤作動を起こしてしまうかもしれません。そのため、現在は祝融もNASAの探査機もセーフモードに入っています。

UAEは火星探査だけでなく、地球外ミッションへの初チャレンジです。ホープは2020年7月20日、日本のH-IIAロケットに搭載され、種子島宇宙センターから打ち上げられました。今年2月9日(日本時間10日)に火星周回軌道に投入できて、火星を回りながらデータを集めています。火星探査は、UAEの建国50周年(2021年)記念であるともに、2117年までに火星に都市を建設すると主張する同国の威信をかけたミッションでもあります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

衆院選、自民単独で300議席超 維新と合わせ3分の

ワールド

選挙終盤に響いたママの一言、「戦争の足音」感じた有

ワールド

衆院選きょう投開票、自民が終盤まで優勢 無党派層で

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏と11日会談 イラン巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 7
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 8
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story