コラム

「シリコンバレーの太陽」とまで称された「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に対する海外の評価を集めてみた

2019年09月17日(火)18時00分

Altimeter Capital社のBrad Gerstner氏は「(ビジョンファンドの)2号ファンドを中止してもらいたい」と訴える。「ライバル社同士を戦わせるのは、それらの企業にとっても、シリコンバレーにとっても、ソフトバンクにとってもよくない」と主張する。孫氏は株主総会で、1つの事業領域、地域で1社だけに投資するのでバッテイングはないと語っていたが、Gerstner氏によるとビジョンファンドは事業領域の重なるDoorDash社とUber社の両方の企業に出資していると指摘している。

このほかにも「投資対象になるようなユニコーンと呼ばれるような大型ベンチャー企業があまり残っていない」「AIを対象としたファンドと言いながら、WeWorkのようなコワーキングスペースにも出資している」「投資先のUberやWeWorkの業績が芳しくない」などと言った批判的、懐疑的な意見は多い。

勝者総取りのAI時代だから

さてここからは私の個人的な見解を述べたい。私は、ビジョンファンドのように上場直前のユニコーンに投資する手法の方が、通常のベンチャー投資よりも有利なのではないかと思う。

1つは孫氏の言うようにシナジー効果が期待できるからだ。ビジョンファンドから投資を受けたベンチャー企業群が全体で大きなシナジー効果を発揮するまでには、まだしばらく時間がかかるだろうが、ソフトバンクがpaypayを実装するに当たってビジョンファンドの投資先の1つであるインドのキャッシュレスベンチャーのPaytmの技術支援を受けている。このような協業が今後も増えていくのだろうと思う。

もう1つの理由は、AIビジネスにはwinner takes all(勝者の独り勝ち)の傾向があると思うからだ。AIはデータがすべて。データが増えればAIはさらに賢くなり、サービスが向上する。サービスが向上すれば、ユーザーが増え、さらにデータが増える。さらにデータが増えれば、さらにAIが賢くなり、サービスが向上する。正のスパイラルに入るわけだ。検索や地図の事業で、先行するGoogleに後発企業がなかなか追いつけないのはこのためだ。

さらに1つの領域を支配するに至ったAIベンチャーは、関連するより多くのデータと成長機会を求めて周辺のビジネス領域に乗り出す。例えば東南アジアでタクシー配車アプリを提供するGrab社は、フードデリバリー事業に乗り出し、最近ではフィンテックの領域にも乗り出した。同社傘下の運転手の勤務データを持っているので、より手堅く運転手へ融資できるメリットがあるからだ。東南アジアの金融機関は、Grab社がフィンテックの領域に参入することを、数年前に予見できていただろうか。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story