コラム

AIを利用した創薬、新素材開発の時代がやってきた

2019年04月04日(木)13時26分

全自動実験装置を開発した米Kebotix社CEOの Jill Becker (筆者撮影)

エクサウィザーズ AI新聞から転載

水の中でも固まるセメントが開発されれば、世界中の港が津波の恐怖から救われるかもしれない。毒性の少ない保冷剤が開発されれば、インドやアフリカに運んでいるワクチンの1/3を失わなくてすむかもしれない。求める特性を指定するだけで、AIとロボットが実験を繰り返し、夢の新素材を開発してくれる全自動実験装置。そんな装置を開発した米Kebotix社CEOの Jill Becker氏は「(AIx新素材の)可能性は無限」と胸を張る。「21世紀はバイオやナノの世紀になる」。故スティーブ・ジョブズ氏を始め、多くの研究者、起業家がそう予言してきた。いよいよ、その予言通りになり始めたのだろうか。

yukawa20190403121402.jpg
Insitro社のDaphne Koller

「まさに新時代の幕開けです」。MIT Technology Review主催のAIカンファレンスEmTech Digitalに登壇した米Insitro社のDaphne Koller氏は、そう宣言した。同氏によると、19世紀は化学の時代、20世紀前半は物理の時代で、20世紀後半はコンピューターの時代だった。「生物学の世界では、ここ5年ほどでものすごい量のデータが取れるようになってきました。時期を同じくしてAIが急速に進化をし始めました」。機は熟した。いよいよ大きな社会変化が起ころうとしている。「2020年からはバイオ・データ・エンジニアリングの時代になります」と言う。

yukawa20190403121403.png
AIを使った創薬ベンチャー、米Insitro社のDaphne Koller

医療コストを大幅削減

Koller氏によると、米国の医療コストが急騰しているのは、1つには新薬の開発に、時間とコストがかかるからだと言う。求める特性を持ちそうな1万個の化合物の候補の中から、250個を選び出す。その中から臨床実験を行う5個を選ぶ。その5個の薬の候補の中からフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3の臨床実験を行って、ようやく1つに決定。その後、政府の認可を受けることができれば市販されることになる。「新薬の価格が高いのは、日の目を見なかった9999個の化合物の試験コストが、新薬の価格に含まれるからです」と同氏は言う。

yukawa20190403121404.png

同氏率いるInsitro社では、1万個の候補の中から250個に絞り込む作業をAIに任せることで、時間とコストを大幅に削減しようとしている。「ここ5年ほどで、入手可能な遺伝データ、生体データの数が爆発的に伸びてきた。オルガノイド(人工臓器)を使った実験データも大量に手に入るようになった。こうしたデータをAIに入力すれば、どんなことができるのでしょう。非常にエキサイティングな時代になってきました」と同氏は目を輝かす。

yukawa20190403121405.png

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story