コラム

マインド・アップロードは可能?──MITを巻き込み世界的権威が真っ二つ

2018年04月23日(月)20時04分

人間の意識をそのままコンピューターにアップロードして再生する技術はある?  wildpixel-iStock.

AI新聞からの転載

脳内の情報のやり取りは、ほとんどが電気信号。なので脳内の電気信号のやり取りの仕組みを、そのまま電子回路で再現できるはず。そういう根拠で研究が進んでいるのが、マインド・アップロード。人間の意識をそのままコンピューターにアップロードしようという研究領域だ。SF映画などではよく見かける話だが、果たして本当にそんなことができるのだろうか。研究はどの程度進んでいるのだろう。

MIT Technology Reviewのこの記事、「MIT、『脳の永久保存』企業との研究契約解消へ」は、ベンチャー企業の事業内容に関する論争なのだが、その中でノーベル賞を確実視されるような世界的な研究者が意見を戦わせているのがおもしろい。対立意見の中にこそ、真実が見える。この記事から、マインド・アップロード研究の現状を探ってみたい。

この記事は、脳の永久保存を推進するベンチャー企業Nectome(ネクトーム)社の主張に科学的根拠が乏しいとして、同社と業務提携しているマサチューセッツ工科大学(MIT)に対しても批判が起こっているという内容。批判を受けて、MITは結局、業務提携を解消している。

将来サイボーグとして再生するために

詳しいことは記事を読んでもらうとして、同社の主張は、①今はまだマインド・アップロードの技術が確立していないが、技術が確立して人間がサイボーグとして生まれ変われるときがくる②今、脳を永久保存しておけば、その技術が確立したときに生き返ることができる、というもの。完全な形で脳を保存するためには、脳死する前に保存液を注入しなければならない。ただ保存液を注入すると、その人物は確実に死ぬ。末期患者の安楽死が認められている国や州でのみ、末期患者の脳の永久保存を受け付けているという。

安楽死に対する賛否が分かれることから、論争になっているわけだ。個人的にはその論争よりも、世界のトップレベルの研究者が脳の永久保存やマインド・アップロードの可能性をどうとらえているのか、ということに興味がある。

人間の蘇生が可能になる未来を信じて、脳を冷凍保存するという研究やビジネスは、ずいぶん昔から存在する。実は僕も米国に在住していた25年近く前に、脳を冷凍保存するベンチャー企業をカリフォルニア州バークレーに訪ねて取材したことがある。工場のような敷地の中に、ドラム缶のような容器が置いてあり、その中に冷凍された脳が保管されている、という話だった。脳1つ当たり100万円ほどで100年間保存する、というような契約だったように覚えている。なんだかずいぶん怪しげなベンチャー企業だった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story