コラム

アマゾン・エコー vs LINEクローバの戦いはこうなる

2017年04月12日(水)20時20分

ボイスが、スマホの次

僕はそうならない、と考えている。なぜならボイスは、次のヒューマンインタフェース(コンピューターと人間の接点の形)であり、影響を及ぼす範囲があまりに広く、複数のキープレイヤーが共存できるだけの市場が十分にあると思うからだ。

コンピューターと人間の接点は、最初はパンチカードだった。それがキーボードになり、マウスになり、タッチスクリーンになった。どんどん人間にとって直感的な操作になっていくのが分かる。スマホのタッチスクリーンよりも直感的な操作と言えば、ボイス。次のヒューマンインタフェースがボイスになることは、間違いないだろう。

そういう話をすると「日本人は恥ずかしがり屋が多いので、ボイス入力する人は少ないのではないか」という反論を受けることがある。確かに満員電車の中でのボイス入力は恥ずかしい。しかし、それは主に大都市圏の話。日本のほとんどの地域に、満員電車は存在しない。

スマホが普及したと言っても、高齢者など、ネットを十分に活用できない人はまだまだ多い。スマホであっても、文字入力が面倒だからだ。そうした人たちも、ボイス・ファースト・デバイスなら、ネットを活用できるようになる。

PC時代からスマホ時代になって、ネットのユーザー数が格段に増えたように、ボイス時代には、ネットユーザー数がさらに伸びるはず。

ネットを通じたビジネスの市場が大きく拡大するわけで、その伸びしろが十分に大きいので、複数のキープレイヤーが共存できるのではないかと思う。

【参考記事】LINEのAIプラットフォーム「Clova」の何がすごいのか解説しよう

スマートホーム、音楽、テレビに変化

では具体的に、どのような領域がボイスの洗礼を受けることにだろうか。

Amazon Echoの利用例を見ると、家電機器には圧倒的な影響を持ち始めた。Echoを通じて音声でコントロールできる照明機器や、音響機器、テレビ、お風呂、ガレージ、スプリンクラー、防犯システム、監視カメラなどが次々と登場している。ボイスでコントロールできない家電製品が売れなくなる時代を迎えようとしているのかもしれない。

音楽もボイスによって大きく変化する業界だろう。既に音楽の聴き放題サービスが幾つか出ているが、ボイスの時代になれば、こうした聴き放題サービスの利用が格段に増えるはずだ。「JPOPのヒット曲を順番にかけて」「勉強に向いたBGMながして」「眠くなるようなリラックス音楽かけて」などと、ボイスで命令するだけで音楽が流れるようになれば、より多くの人がより気軽に音楽を楽しむようになるだろう。音楽利用が格段に増えるはずだ。

Amazon EchoとGoogle Homeのユーザーに対して、「(ボイス・ファースト・デバイスの)何が気に入っていますか」と質問したところ、音楽やオーディオブックを気に入っていると答えた人が最も多く、回答者の46.7%を占めていいた。AmazonのCEO、Jeff Bezosは「音楽ビジネスは全盛期に向かっている」と語っているほど、音楽業界に大きな変化となるだろう。

ボイス好きな理由.png
出典VoiceLabs

またテレビもボイスによって大きく変化する領域だろう。リラックスするためにテレビを見ているのに、現状では、録画や再生に手間がかかり過ぎる。操作が面倒なので、とりあえず今放送されているものを見る、という人も多いと思う。

これが、ボイスで簡単に好きな番組を探せたり、録画、再生ができるようになれば、視聴行動が大きく変化することだろう。ボイス機能を理由に、テレビを買い換える人も出てくるかもしれない。

現時点でのボイス・ファースト・デバイスの機能だけでも、家電、音楽、テレビの領域に大きな変化が起こることは、想像に難くない。しかし機能は進化する。まだ見ぬキラー用途が絶対に存在するはずだ。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮、31日発射は最新ICBM「火星19」 最終

ワールド

原油先物、引け後2ドル超上昇 イランがイスラエル攻

ビジネス

アップル、四半期業績が予想上回る 新型iPhone

ビジネス

インテル、第4四半期売上高見通し予想上回る 第3四
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story