コラム

ジェノサイドで結ばれる中国とミャンマーの血塗られた同盟

2020年01月29日(水)18時20分

しかし、ミャンマーの実権を握る軍部には北方の巨大な隣人を警戒する雰囲気も残る。政府と少数民族武装勢力との間で自治権をめぐる紛争は今も続いているし、反政府武装勢力の多くは中国と特別な関係を持っている。中国系の少数民族は国境を挟んで雲南省側に同胞がおり、政府軍との戦いで不利になると、中国側に避難する。

一部の武装勢力の指導者は文化大革命期に越境し、「世界革命の実現」を目指した元紅衛兵だ。彼らは戦闘に疲れると雲南省に入って療養し、中国政府の指令と援助を受ける。習自身が元紅衛兵であり、ミャンマーの密林で「革命戦争」を続けてきた反政府武装勢力にシンパシーを抱き、内政干渉の駒として使っているとみていい。当然、ミャンマー軍は反政府武装勢力の背後にいる習に全幅の信頼を置けない。

それでも経済的な結び付きは強化されている。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2018年度の中国からミャンマーへの直接投資は5億5800万ドルに達し、制裁を受けているスーチーにとっては、まさに救いの手である。今回の習の訪問でも、最大都市ヤンゴンの開発など33項目の援助が決定されたとの報道がある。

ミャンマーと中国の間で結ばれた「友情」は、ジェノサイド犠牲者たちの鮮血によって真っ赤に染まっている。

<本誌2020年2月4日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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