コラム

マクロンは「朝貢」訪中で、人権にも触れず馬脚を現した

2018年02月03日(土)11時00分

中国の歴史で馬を外交舞台で用いることは今に始まったことではないが、たいていは去勢していない雄馬が多い。種馬は荒々しく制御が難しい。かつて内陸アジアの遊牧民の君主が中国の皇帝に馬を贈った際は、その世話係も一緒に派遣された。農耕民の中国人に種馬をコントロールする技がない上、去勢した動物を不吉だと見なしていたからだ。

去勢した動物に子孫を残す能力がないので、子孫繁栄こそが最大の親孝行だとの儒教の理念を堅く信奉する中国はそれを忌避した。馬克龍の朝貢品である去勢馬は単に「龍」に勝っただけでなく、中国の伝統的な価値観にまで挑戦したので、注目されたのだ。

それでも中仏両国は実利外交を最優先した。中国はエアバス機を購入し、フランスは中国の核エネルギー技術を支援すると約束。総額約200億ドルの契約が結ばれたと報じられている。「特朗普/川普」大統領と交わした2500億ドルの8%にすぎないが、フランス国内で人気が低迷中の若き大統領と随伴した財界人たちにとっては決して小さくない手土産だ。

さらに宮廷の中華料理に舌鼓を打って忘れたのか、フランスお得意の人権について全く口にしなかったという。マクロンが訪中前に言い放ったと報じられている「中国と人権を議論しても無駄」との発言は、中国に無力感を覚える欧米の見方を代弁している。

世界は人権より実利優先で動きだしている。今後も中国にさまざまな朝貢が続くだろう。

<本誌2018年2月6日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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