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変わり続ける今の世界で、柔軟に信念を変えていく生き方のススメ
今の世界はどんどん変わっている phototechno/iStock.
<新たなことを学び、自分の生き方を変えていくためには、「科学者」のように考えるべき>
アメリカの東海岸北部の地域「ニューイングランド」は冬が長くて春がなかなか来ない。けれども先週末は20℃を超える夏のような気温になるという予報が出たので、夫と一緒にニューハンプシャー州のホワイトマウンテンにRV車で行って私有地でキャンプをした。
その土地のオーナーの説明に従い、キャンプサイトから国立公園のトレイルに向かって夫と2人で歩き始めた。子供時代にイーグルスカウトでキャンプやハイキングの経験を積んだ夫がさっさと先頭に立って歩いていく。方向音痴の私は彼を信じてついていったのだが、トレイルにしては枯れ葉が厚く重なりすぎているし、倒れた木も多すぎる。
しだいに歩くのが困難になってきて「これはトレイルじゃないと思う」と夫に言ってみたのだが、「ニック(土地のオーナー)はまっすぐに行って公園のトレイルにぶつかったら左に折れる、と言った。こっちの方向だ」と言ってどんどん進んでいく。そして、「あの道がきっとそれだ」と左の方向を指した。
自分の能力を過大評価
夫が指差したのは一見道に見えるが私の膝丈ほどの枯れ草がなぎ倒されているだけだ。「あれは雨水が川に流れていく水路だと思うよ。トレイルなら草は踏み潰されて生えない」と答え、「今まで来た道はトレイルではないと思うので引き返そう」と提案した。私は方向音痴だが、森のジョギング歴は長い。その間に獣道とトレイルを間違えたこともあるし、迷ったこともある。それは夫にはない体験だ。
今歩いているところがトレイルではないと思う理由を説明したら、彼も納得して引き返すことになった。背が高い夫が目の前にいると風景を見ることができないので、今度は私が先頭に立って来た道を戻った。すると、夫が見逃していたトレイルが見つかった。新たに見つけたトレイルを歩きながら、私は「これって、Adam GrantのThink Againに出てきそうなエピソードだね」と夫に語った。
Adam Grantはペンシルバニア大学ウォートンスクールで組織心理学(organizational psychology)を教えている心理学者で、大物のビジネスマンが信頼するベストセラー作家だ。今年2月に発刊されたGrantの『Think Again』は、これまで強く信じていたことでも柔軟に「考え直すこと」の貴重さを説いた本だ。
この本の最初のあたりに出てくるのが、ほんのちょっとだけ知識を得た人が自分の能力を過大評価するダニングクルーガー効果だ。アメフトをやったことがないのに、プロのクォーターバックや監督のプレイをわかったように批判するスポーツファンがよくいるが、それは「armchair quarterback syndrome」と呼ばれる。アメフトのことをまったく知らない人なら絶対にしないことだが、ちょっと知っていると自分の知識を過大評価するようになるのだ。
私が「これはトレイルではないと思う」と最初に言ったとき、夫は「木にマーキングがある。これはトレイルの証拠だ」と言って譲らなかった。実はこれは別のマーキングだったのだが、少し知識があるがゆえに、地面の様相がまったくトレイルらしくないという別のエビデンスを彼の脳は無視することにしてしまったわけだ。「これはトレイルではない」と思っているのに強く言えずについていった私は、Grantが対で紹介しているimposter syndromeのほうだ。経験があっても自分が偽物のような気がして強く押せないのである。
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